2008-01-01から1年間の記事一覧

奔馬

三島由紀夫著、新潮文庫 豊饒の海(二)。松枝清顕の生まれ変わりである右翼青年、飯沼勲がテロを計画し、挫折しながらも、最後に「思い」を遂げる物語。20歳の若者の「きらめき」や、彼が思いを寄せる槙子の「本性」の描かれ方はすさまじいとさえ言える。…

春の雪

三島由紀夫著、新潮文庫 三島由紀夫の遺作である「豊饒の海」4部作の(一)。最近映画化され、再び話題となっている。 残念ながらこれまで三島文学とはあまり縁がなかったが、圧巻の一言。全編に渡って「美しい」日本語が散りばめられている。例えば、貴族…

風の歌を聴け

村上春樹著、講談社文庫 村上春樹氏のデビュー作。村上氏の小説を読むのは「海辺のカフカ」以来になる。これが「シュール」と言われるものだと言われればそれまでだが、どうも好きになれなかった。しかし、今やノーベル文学賞候補の常連と言われ、現代日本の…

お腹召しませ

浅田次郎著、中公文庫 「五郎治殿御始末」に続く浅田次郎氏の幕末短編集。「中央公論文芸賞」や「司馬遼太郎賞」の受賞作とのこと。評価が高かったようだ。 霧笛荘夜話 - a follower of Mammonをはじめ、浅田氏の連作的な短編集は、その「狂言回し」ぶりが鮮…

月曜日は最悪だとみんなは言うけれど

村上春樹編訳、中央公論新社 「村上春樹翻訳ライブラリー」の一冊。村上氏が好きな作家、レイモンド・カーヴァーやティム・オブライエン、トム・ジョーンズらの短編や、彼らについての雑誌記事などの翻訳を集めたもの。基本的には中央公論の連載だったらしい…

消え去ったアルベルチーヌ

プルースト著、高遠弘美訳、光文社古典新訳文庫 マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」の第6篇の「新訳」。著者が死の直前まで手を入れた原稿(初版よりもだいぶ短くなっている)を元にした「グラッセ版」の本邦初の翻訳。そういう意味では、これま…

Clapton THE AUTOBIOGRAPHY

Eric Clapton著、Broadway Books刊 「ギターの神様」と呼ばれるエリック・クラプトンの自伝。最近邦訳され、ジョージ・ハリスンの妻だったパティ・ボイドとの「略奪愛」など赤裸々な告白が話題を呼んでいた。 確かに本の中身の大半は、女性遍歴や、麻薬、ア…

予告された殺人の記録

G・ガルシア=マルケス著、新潮文庫 コロンビアのノーベル賞作家、ガルシア=マルケスの作品を初めて読んでみた。本当は「百年の孤独」を読みたかったが、残念ながら文庫化されていないようなので、作家の自己評価も高い本書にした。 閉鎖的な町で起きた凄…

あやしうらめしあなかなし

浅田次郎著、双葉文庫 浅田次郎のホラーの連作短編集。霧笛荘夜話 - a follower of Mammonの方が作品の完成度は高いが、他の浅田作品にも散見される幽霊話などが集められ、浅田次郎らしい作品集とも言える。母親の実家である御岳山にまつわる話など、「自伝…

霧笛荘夜話

浅田次郎著、角川文庫 久しぶりの浅田次郎作品。浅田文学の(私的)分類でいけば、いわゆる「純粋人情系」の作品。横浜のぼろアパート「霧笛荘」の住人一人一人を主人公にした連作短編集となっている。仕事が忙しいが、2日で読んでしまった。 くすぶりのチ…

赤と黒 上・下

スタンダール著、野崎歓訳、光文社古典新訳文庫 スタンダールの代表作のフランス文学者による新訳。こちらも旧訳は未読なので、比べることはできないが、あまり読みやすい文体とは言えなかった。ただ、「訳者あとがき」によれば、著者自身も読み返して 「あ…

Never Let Me Go

Kazuo Ishiguro著、faber and faber 長崎出身の英国人作家、カズオ・イシグロの最新刊。ブッカー賞を受賞した「日の名残」とはうって変わって、人間のクローンがテーマ。臓器を「donate」するために作り出されたクローンの少年少女たちの成長物語になってい…

生物と無生物のあいだ

福岡伸一著、講談社現代新書 著者は「分子生物学者」。細胞やら遺伝子やらを研究している人らしい。特別、この分野に興味があったわけではないが、ベストセラーになっているようなので、買ってみた。 いわゆる「研究者」と呼ばれる人たちの生活が紹介されて…

DEATH IN THE AFTERNOON

Ernest Hemingway著、VINTAGE CLASSICS かなり以前に購入してあったが、読まないままになっていた。アマゾンに掲載されている写真と表紙の絵が変わっている。きっと新版が出版されたのだろう。 スペインの闘牛について書いたノンフィクション。名作「日はま…

文豪のミステリー小説

山前譲編、集英社文庫 仕事が忙しくなり、ここのところ、ほとんど読書の時間が取れなかった。時間が取れないというより、疲れのためになかなか本に集中できなかった。このブログの更新も3月中旬以来、2カ月ぶりとなる。 さて、本作は夏目漱石や山本周五郎…

しっかり学ぶフランス語

高橋美佐著、ベレ出版 背表紙には きちんとフランス語の基礎を学びたい人、もう一度フランス語の基本からしっかり学びなおしたい人の本格的な入門書。 とある。確かにそのような向きにはいい本だと思う。紹介される動詞の時制は直説法現在形だし、難関の代名…

いま、会いにゆきます

市川拓司著、小学館 昨日の「キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る」で紹介されていた本書、さっそく読んでみた。妻の本棚に入っていた単行本。374ページあるが、短い言葉による会話が多く、約2時間で読了した。 帯に書いてある阪急ブックファースト…

キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る

木村晋介著、筑摩書房 椎名誠氏の友人である「キムラ弁護士」による書評集。題名にあるとおり、ミステリー小説の矛盾点や問題点を切り捨てるという趣旨で始まっている。ただ、取り上げている作品は「恋愛・家族小説」や「ロングセラー・ベストセラー」に及び…

兄弟は他人の始まり−介護で壊れゆく家族

真島久美子著、講談社 脳梗塞の母親と認知症の父親の壮絶な介護記。著者は私には未知だったが、漫画家としてデビューし、自らのお見合い体験をまとめた「お見合いの達人」という本で話題になった人らしい。 筆致はあけすけで、筆者の気持ちを隠さずに暴露し…

DVDで入門フランス語

中山真彦著、白水社 題名の通り、DVDで勉強するフランス語の入門書。日本に留学しているアンヌ=マリーがパリに一時帰国するという設定。パリ市内の雰囲気を伝えるだけでなく、トゥールへの旅行編なんかもあり、なかなか楽しめる。主役の女優が無表情なのは…

ティファニーで朝食を

トルーマン・カポーティ著、村上春樹訳、新潮社 本は購入した順番に読むのを原則にしているが、たまにはこういう例外もある。昨日届き、今日一日で読了した。いわゆる「村上春樹新訳モノ」の最新刊。オードリー・ヘプバーンの映画で有名な、という枕詞が付く…

Cesar's Way

CESAR MILLAN著、THREE RIVERS PRESS ナショナルグラフィックチャンネルで「Dog Whisperer」という問題行動犬の対処方法を紹介する番組を持っている犬の心理学者(?)が、その生い立ちから犬とうまくつき合うための考え方をつづっている。一言で言ってしま…

東京奇譚集

村上春樹著、新潮文庫 東京を舞台にした奇妙な物語が5本。作品としての完成度、語り口の妙は最初に収録されている「偶然の旅人」が優れていると思ったが、最後の「品川猿」もなかなか震えた。若干、物語の深みは犠牲になったようだが、短編らしい「鮮やかな…

空中ブランコ

奥田英朗著、文春文庫 奥田氏の直木賞受賞作。「イン・ザ・プール」に続く型破りな神経科医師、伊良部一郎モノの第二作だが、全体的なまとまりは本作の方がいいような気がした。サーカス団員、ヤクザ、作家、プロ野球選手など「病」を抱えた主人公も多彩。特…

フラ語動詞、こんなにわかっていいかしら?

清岡智比古著、白水社 私にとって2冊目のフランス語入門書となった「フラ語入門、わかりやすいにもホドがある!」の動詞バージョン。「フラ語入門」も後にして思えば、中身が若干薄かったが、とっつきやすい本だったことは確かなので、やや苦手になりつつあ…

アレルギーはなぜ起こるか

斎藤博久著、講談社 息子がアトピー性皮膚炎で、私自身にとっても花粉症の発症を控えた嫌な季節になってきたので、アレルギーについて一回勉強しておこうと思って購入。アレルギー体質の保有者が関東地区の20歳代で70〜80%に達している、との記述もあり驚い…

And You Know You Should Be Glad

Bob Greene著、Harper刊 ボブ・グリーンの近刊で、がんのため57歳で亡くなった親友と過ごした最後の日々をつづったノンフィクション。親友を見舞う傍らで、思い返される少年時代から現在まで共に過ごした時間。このようなノスタルジーと、親友が自転車強盗が…

フランス語のABC

数江譲治著、白水社 いかにも入門書な題名で、帯にも ABCから勉強を始める人たちのための最高の入門書! とある。しかし、中身は相当濃い。「フラ語入門、わかりやすいにもホドがある!」に続いての入門書となったが、こちらはうって変わって生真面目で地味…

ファウスト第二部

ゲーテ著、池内紀訳、集英社文庫 「難解」とされるこのファウスト第二部。確かに意味不明な個所も多く、読み進めるのに苦労した。 第一部が「恋」を巡る話だとすれば、第二部は主に「カネ」を巡る話。かつて、凶悪事件の動機のほとんどは「カネ」「女」「権…

UNTIL I FIND YOU

John Irving著、BALLANTINE BOOKS ジョン・アーヴィングの自伝的要素が強いとされる作品。このニューヨークタイムズの記事While Excavating Past, John Irving Finds His Familyを読んだことがきっかけで購入。 父に捨てられた(と思っていた)男の、幼年時…