文庫

駅路―傑作短篇集

松本清張著、新潮文庫 いわゆる推理小説を集めている。全体にトーンは重苦しいが、どんどん話に引き込まれる運びは見事。 嫌な上司を追い落とそうとして、その上司の情婦を殺害。完全に見えた犯罪が意外なところからほころぶ「偶数」や、邪馬台国論争に対す…

テンペスト(1)〜(4)

池上永一著、角川文庫 琉球王朝末期を舞台にした宮廷もの。女性が性を偽り「宦官」として王宮の官僚になり大活躍する波瀾万丈のストーリー。途中からは王の側室との「一人二役」もこなすという荒唐無稽な話になっていく。 中国・清と琉球王朝の違いや、主人…

スプートニクの恋人

村上春樹著、講談社文庫 女性同士の恋愛(片思い)を中心に描いた恋愛小説。長く、時として説明調の会話など、村上文学らしい運び。ここら辺は気になる人にとっては気になるところだろう。 ギリシャを主な舞台にしていて、ドロドロとしたものになりがちなテ…

或る「小倉日記」伝 傑作短編集(1)

松本清張著、新潮文庫 松本清張の短編のうち、現代小説(いわゆる純文学的なもの)を集めた。森鴎外の小倉時代の追跡に夢中になる市井の人を描いた表題作は芥川賞受賞作である。障害を持ちながら研究に情熱を注ぐ男と、それを支える美しい母親の無償の愛は胸を…

ルネサンスの女たち

塩野七生著、中公文庫 「我が友マキアヴェッリ」に続いてチェーザレ・ボルジアの話を読もうと思ったが、図書館にて貸出中だったため、代わりに借りた。塩野氏のデビュー作らしく、この文庫版の初版は、私の生年の1973年である。 政略家だったマントヴァ公爵…

紅一点論

斎藤美奈子著、ちくま文庫 副題に「アニメ・特撮・伝記のヒロイン像」とある通り、評論家の斎藤美奈子氏が「男社会の紅一点」となっている子供向けテレビ番組や伝記本を斬る。 子供向け番組の紅一点と言えば「ゴレンジャー」などの「戦隊モノ」が真っ先に思…

わが友マキアヴェッリ1〜3

塩野七生著、新潮文庫 「君主論」で知られるルネッサンス期フィレンツェの官僚・作家、マキャヴェリの生涯を描いた長編。「マキャヴェリズム」について関心を持っていたところ、地元の図書館で見つけて借りた。 塩野氏の著作を読むのはしばらくぶりで、前に…

ま、いっか。

浅田次郎著、集英社文庫 どうしたことか、3月以来約8カ月ぶりの読書となってしまった。この間、仕事が変わったりして多少落ち着かなかったのは事実だが、ここまで読書から離れるとは。なんとも寂しい。 本書は浅田氏のエッセー集。主に雑誌連載をまとめた…

運命の人 四

山崎豊子著、文春文庫 裁判で破れ、実家の事業でも失敗した弓成は家族と離れて沖縄へ行く。その沖縄での悲惨な戦争の証言の取材と、米国立公文書館で密約を裏付ける文書が見つかったこと等も受けての弓成自身の蘇生が描かれる。大半が沖縄の人々の「聞き語り…

運命の人 三

山崎豊子著、文春文庫 第3巻は裁判闘争を軸に描かれる。記者・弓成は1審で無罪判決を勝ち取るものの、2審で逆転有罪となり、最高裁で確定する。密約文書を持ち出した事務官・三木の方は1審で有罪判決を受け確定する。弓成の逆転有罪の決め手となったのが…

運命の人 二

山崎豊子著、文春文庫 物語は記者・弓成と元外務事務官・三木の逮捕から起訴、公判へと進む。その過程で弓成と三木の肉体関係がついに明らかになる。その描写はあっさりとしているものの、エロティック。そのために弓成の妻ら関係者は苦悩し、また、「言論の…

運命の人 一

山崎豊子著、文春文庫 沖縄返還をめぐるいわゆる「西山記者事件」を題材にした長編。文藝春秋連載中に少し読んでいたが、最後まで行けず、今回、NHKのドラマになったのを期に通しで読んでみることにした。 この第1巻では問題の文書漏洩から、発覚の端緒とな…

新選組物語

子母澤寛著、中公文庫 子母澤の「新選組三部作」の最後を飾る。題名に「物語」とあるように、資料や聞書が主だった過去2作と比べ、いわゆる「小説」の体裁をとっている文章ばかりで、格段に読み易い。浅田次郎著「壬生義士伝」の主人公、吉村貫一郎の話もこ…

新選組遺聞

子母沢寛著、中公文庫 子母澤新選組三部作の第二作。新選組始末記 - a follower of Mammonに入りきらなかった話をまとめたようだが、エピソード自体はダブリもかなり多い。漢文体の手紙や日記、浪士が詠んだ和歌の類が多数収録されていて、本格的な研究書に…

新選組始末記

子母澤寛著、中公文庫 「新選組研究の古典」として定評のある作品。東京日日新聞の記者をしていた子母澤が昭和3年に出版したもの。新選組の誕生から勇の処刑までを、年代を追いつつ、事件やエピソードを手頃な長さの文章で紹介していく。なるほど別の人の作…

すべての人生について

浅田次郎著、幻冬舎文庫 「饒舌な作家」を自認する浅田氏の対談集。小松左京や陳舜臣、北方謙三、渡辺淳一、宮部みゆきの各氏ら作家が中心だが、中には中村勘九郎(現勘三郎)や李登輝というのもあって興味深い。話題も、浅田氏の作品にちなみ、「中国」や「…

アイム・ファイン!

浅田次郎著、小学館文庫 つばさよつばさ - a follower of Mammonに続く、JALの機内誌のエッセーをまとめた単行本第2段。本作も、機内誌だけに「旅」にまつわる話を中心に、稀代のストーリーテラーとしての軽妙な語り口が遺憾なく発揮されている。中原の虹1…

美女と竹林

森見登美彦著、光文社文庫 森見氏自身が登場し、「竹林経営」なる未来を妄想しながら、会社の同僚が所有する竹林を刈る(ことを妄想する)というだけのエッセー風小説とでも言おうか。「小説宝石」の連載だったようだが、文中でも再三言われているように、行…

ハッピー・リタイアメント

浅田次郎著、幻冬社文庫 元自衛官らがはちゃめちゃな活躍をする、浅田文学における「ギャグ系」の新作。今回は役人の天下りがテーマになっていて、債権回収のための特殊法人に、退職した自衛官と財務官僚が、時効を迎えた債権を回収して大金をせしめる、とい…

ルーヴルの名画はなぜこんなに面白いのか

井出洋一郎著、中経の文庫 府中市美術館館長によるルーヴル美術館の作品紹介。名画および彫刻の数々をカラー写真付きで紹介。「これだけは観たい」と銘打った3時間コースと、「一日たっぷり鑑賞する」6時間コースに分けて紹介されているものの、実際はほぼ…

夕映え天使

浅田次郎著、新潮文庫 浅田氏の最新短編集。人生のほんの1ページをともに過ごした女の死をきっかけに、中年のおやじ2人が邂逅する、典型的な浅田作品といえる表題作など6編。定年の日を迎えたおやじの悲哀を描いていると思いきやSF的な種明かしが待つ「…

さよなら、愛しい人

レイモンド・チャンドラー著、村上春樹訳、ハヤカワ文庫 昨年秋からランニングを始め、今は1日10キロほど走れるようになった。今月は暑さやら忙しいやらで大して走れていないが、先月は計160キロになった。それはそれで充実感はあるが、一方でマイナス…

恋文の技術

森見登美彦著、ポプラ文庫 今度は書簡体小説である。京大(らしき)大学院生が、クラゲの研究のため、能登の試験場に半年飛ばされる。その間、「文通修行」と称して、友人や妹、先輩、家庭教師をしていたかつての教え子に至るまで、手紙を書きまくる。さすが…

深夜特急ノート 旅する力

沢木耕太郎著、新潮社 独特の装丁。帯には「〈最終便〉が、発車します。」とある。かつて、熱中した思い出がある読者なら、誰しも手に取ることだろう。言わずとしれた「深夜特急」に結実した、沢木氏26歳の旅の裏話集。これまでに語られたようなことも多い…

プリンセス・トヨトミ

万城目学著、文春文庫 ここへの書き込みを1ヶ月していないということは、この1ヶ月で読み終わった本は、本書だけということになる。この間、何をしていたのか。日々のランニングが本格化して(4月は計170キロ走った)、通勤電車の中で寝てしまう時間が…

日記をつける

荒川洋治著、岩波現代文庫 著者略歴によると、荒川氏は「現代詩作家」。自身も長いこと日記をついているという著者が、作家の日記を取り上げつつ、その効用などを語る。日記そのものは、取り上げる作家が若干マニアックなこともあり、さほど印象に残らないが…

鼓笛隊の襲来

三崎亜記著、集英社文庫 バスジャック - a follower of Mammonに続く、三崎氏の短編集。巻頭の表題作の始まりから 赤道上に、戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。 鼓笛隊は、通常であれば偏西風の影響で東へと向きを変え、次第に勢力を弱めながらマーチングバ…

ホルモー六景

万城目学著、角川文庫 鴨川ホルモー - a follower of Mammonのスピンオフ的な短編集。「あのときはこういう裏話があった」というような本編の背景を説明した話を中心に6話。ホルモーをする4大学に、同志社が含まれていない理由が(それなりに)説明されて…

中原の虹4

浅田次郎著、講談社文庫 「蒼穹の昴」第3部、「中原の虹」の最終巻。あの、袁世凱でさえも、死に際して善人として描かれ、いかにも浅田氏らしい。春雷と妹の再会の場面の泣かせ方もさすがである。 全編を通じて宋教仁を高く評価し、徐世昌に次のように語ら…

中原の虹3

浅田次郎著、講談社文庫 張作霖の権勢はいよいよ巨大となり、清朝は袁世凱への権限移譲という形で滅ぶ。また、亡命中の梁文秀のもとには若き蒋介石が現れ、歴史の胎動が感じられる。張作霖の活躍は、何となく来るべき「破滅」を予感させるものとなる。日本の…