消え去ったアルベルチーヌ

プルースト著、高遠弘美訳、光文社古典新訳文庫
消え去ったアルベルチーヌ (光文社古典新訳文庫)
マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」の第6篇の「新訳」。著者が死の直前まで手を入れた原稿(初版よりもだいぶ短くなっている)を元にした「グラッセ版」の本邦初の翻訳。そういう意味では、これまで厳密な意味で翻訳本が存在しないため、従来の「新訳」とは多少意味が違うのかもしれない。
確か世紀の変わり目に、雑誌などで「20世紀最高の文学」と称する記事を目にして、ちくま文庫版を約1年がかりで読破した。その中では「逃げさる女」にあたる章である。話者の「彼女」であるアルベルチーヌの出奔と死を中心とする章である。
久しぶりにプルーストならではの切れ目ない文章と、行ったり来たりする考察を読むと、いささか疲れた。しかし、(374ページ中、後半の150ページほどは解説やら註やらが続くこともあり)マニアックながらも新しい発見も多かった。ちくま文庫版を読んだ時の記憶は薄れているが、確かにこの「グラッセ版」の方が全体的にすっきりした印象である。「訳者あとがき」にあるように

プルーストを一度読んだだけで放棄してしまうのではつまらない。折に触れ、年齢がすすむにつれて、また、どこからでもいいから、読み返すことをお薦めする。

ということなのかもしれない。私自身は、じゃああのちくま文庫版を一から読み返すのはさすがにつらいが…。