2009-01-01から1年間の記事一覧

つばさよつばさ

浅田次郎著、小学館文庫 浅田氏の旅にまつわるエッセー集。JALの機内誌の連載をまとめたものらしい。一時期、JAL便にはかなり乗り、機内誌も愛読していたつもりだったが、なぜかこのエッセーを読んだ記憶がない。 旅にまつわるとはいえ、話題は多岐にわたる…

月下の恋人

浅田次郎著、光文社 久しぶりの浅田作品。いわゆる「泣かせ・幻想系」の短編集で、「鉄道員」の系譜に連なる。種明かしがないまま終わる作品も見られるなど、ストーリーテリングの名手にしてはいまいちな作品もあるが、「泣かせ」の部分はさすが。「告白」な…

大作家“ろくでなし”列伝

福田和也著、ワニブックス刊 和洋の作家24人の作品と、その破天荒な生き様を紹介する。作家は三島由紀夫や川端康成、ヘミングウェイら主立った「大作家」を網羅している。エピソードも比較的一般に知られていることが多く、新たな発見というものは少なかっ…

若い読者のための短編小説案内

村上春樹著、文春文庫 村上春樹氏が、お気に入りの「第三の新人」世代の作家6人の短編6編を読み解く。アメリカの大学で自身が教えていた内容がベースになっているようだが、作品選定のひねり方と、その理由を長々と説明しているあたりは、いかにも村上氏ら…

ポケットに名言を

寺山修司著、角川文庫 寺山修司版の名言集。いわゆる金言・格言の類だけでなく、映画や寺山自身の作品からも選ばれている。寺山のコメントもおもしろい。 例えば、映画「あなただけ今晩は」のシャーリー・マクレーンのせりふ 昔、パリ音楽院の学生だったの。…

罪と罰3

ドストエフスキー著、亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫 いろいろあって読了に時間がかかった。ドストエフスキーの大作、亀山新訳の完結編。苦悶を続けたラスコーリニコフがついに自首する。 読了して思ったのは、やはり「カラマーゾフ」の方が遠大な物語だっ…

罪と罰2

ドストエフスキー著、亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫 ラスコーリニコフの苦悩は続き、予審判事、ポルフィーリーとの対決が始まる。ポルフィーリーについては、高村薫氏の作品にそのあだ名を持つ冷徹で嫌味な刑事が出てきた。本作中では、確かに嫌味な人物と…

罪と罰1

ドストエフスキー著、亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫 「カラマーゾフの兄弟」に続く亀山氏の新訳第2弾。貧乏学生の主人公、ラスコーリニコフを殺人を犯し、苦悩するまでがこの第1巻。 「カラマーゾフ」と同様、旧訳を読んでいないので、訳の比較はできな…

誕生日の子どもたち

トルーマン・カポーティ著、村上春樹訳、文春文庫 たまたま外出先で読む本がなくなり、珍しく書店で購入。最近はほぼAmazonで本を購入してきたので、たまに書店に行くと、買うべき本を選ぶのに意外と迷う。結局、ある意味無難な領域になっている村上訳を購入…

THE END OF THE AFFAIR

Graham Greene著、PENGUIN CLASSICS 「情事の終わり」として知られる作品。男性作家と、公務員の妻の恋愛を巡る物語だが、その題名の通り、話の大半は関係が終わりを告げた後の出来事。 男が爆撃で死んだと思いこみ、神に祈ったことから、女は別れを決意する…

「この街」に住んではいけない!

中川寛子著、マガジンハウス 「住まいのカリスマアドバイザー」による、住宅物件選びの「コツ」をまとめた本。数年前に住宅購入を検討したときに買った本だが、読まないまま住宅購入熱が冷めていた。最近、また購入を検討するようになって、思い出したように…

ピカソ 巨匠の作品と生涯

岡村多佳夫著、角川文庫 フェルメールに続く、KADOKAWA ART SELECTIONの第2弾。東京造形大教授が、ピカソの人生を年代記的に追いながら、創作の背景を探る。 「青の時代」など、言葉としては何となく知っていたことが、ピカソのその時代の生活とともに解説…

飛行人 本物探し、世界の旅

TBSテレビ「飛行人」制作スタッフ、東京書籍 前回のエントリーが5月10日だから、しばらく読書から遠ざかっていたことになる。この間、仏検を受検したしたため「読書するよりはフランス語の勉強を」と思ったわけだが、結局、勉強はほとんどしなかった。この…

町長選挙

奥田英朗著、文春文庫 デブで強烈なキャラクターの医師、伊良部一郎を巡る人情ギャグシリーズの3作目。収録作は4作で、ナベツネをモデルに、プロ野球の1リーグ化などの問題で神経をやられる男を描いた「オーナー」や、ホリエモンをモデルに、カネにものを…

バスジャック

三崎亜記著、集英社文庫 「となり町戦争」に続く著者2作目は、短編集。摩訶不思議な設定をした作品が7編収められている。10年ぐらい前の「西鉄バスジャック事件」がヒントになったとみられる「バスジャック」は、バスジャックがある種の競技化されている非…

となり町戦争

三崎亜記著、集英社文庫 住んでいる町が、地域振興のために隣接する町と戦争をする、というストーリー。突飛な設定の小説で最近知られるようになった著者のデビュー作。著者自身も公務員であるらしく、戦争の「事務手続き」や予算獲得・消化などのメンタリテ…

草原からの使者 沙高楼綺譚

浅田次郎著、徳間書店 南青山にあるペントハウスで名をなし功を遂げた人たちが集い、語り合う「決して口にすることがなかった貴重な経験」。形式は連作短編集で「沙高楼綺譚」の続編にあたる。収められているのは4編。首相になれなかった政治家の秘書、一文…

フェルメール−謎めいた生涯と全作品

小林頼子著、角川文庫 「日本におけるフェルメール研究のスペシャリスト」とされる目白大教授によるガイド本。あまり詳細が明らかになっていない、オランダ17世紀の画家・フェルメールの生涯を振り返り、(あくまでも推定の)年代記的に現在に伝わる作品を…

誰も知らなかった賢い国カナダ

櫻田大造著、講談社+α新書 カナダ地域研究を専門とする関西学院大教授が、米国の影に隠れがちなカナダの政治などを紹介した本。経済では日本以上に米国依存ながら、イラク戦争には賛成しないなど、独自の風土を持つ「豊かな大国」として紹介している。政党…

容疑者Xの献身

東野圭吾著、文春文庫 東野圭吾氏の直木賞受賞作。東野作品は題名は忘れたものの、以前にも1冊読んだことがあった気がするが、いわゆる「ガリレオシリーズ」は初めてである。 この手の物語は、読みながら種を当てるとともに、あらを探してしまう癖がある。…

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下)

村上春樹著、新潮文庫 二つの話は徐々にオーバーラップし、一角獣の頭骨の「変化」によって同時進行の物語だということが分かる。「ハードボイルド」に関しては、博士と再会して「種明かし」が済んで地底を脱出した後は、それまでのサスペンス性は影を潜め、…

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)

村上春樹著、新潮文庫 どこか中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジーのような「世界の終り」と、巻き込まれ型のスパイ小説チックな「ハードボイルド・ワンダーランド」が交互に進行する80年代の作品。当初は全然関係ないと思われた二つの物語が、徐々にオ…

恋愛指南−アルス・アマトリア

オウィディウス著、沓掛良彦訳、岩波文庫 古代ローマの詩人による「恋愛指南書」。作者のオウィディウスは「愛の詩人」と呼ばれていたらしく、その愛の「技術」を伝授しようというもの。作者も巻末で「たわむれ」と書いているが、一種のパロディーだったらし…

書きあぐねている人のための小説入門

保坂和志著、中公文庫 保坂和志さんという人の小説を読んだことがなく、別に小説を書こうとして書きあぐねているわけでもない。ただ、何となく「小説を書くのって、具体的にどういう風にするのだろう」と考えているところがあって、08年11月発行の新刊本紹介…

江戸川乱歩短編集

千葉俊二編、岩波文庫 岩波文庫から昨年出た。怪人20面相の映画「K-20」が公開されたから、という訳ではないが、新聞記事か何かで紹介されているのを読んで、買ってみた。 収録作は、デビュー作の「二銭銅貨」や明智小五郎が初登場する「D坂の殺人事件」、名…

TRYING TO SAVE PIGGY SNEED

JOHN IRVING著、Ballantine Books ジョン・アーヴィングのメモワールや短編小説(彼は生涯で8編しか短編小説を書いていないらしい)、ディケンズの小説へのあとがきなどを集めた本。基本的に文字通りの長編ばかりを書いている印象のアーヴィングが、数こそ…

午後の曳航

三島由紀夫著、新潮文庫 船乗りと美しい未亡人、中学生になるその息子の愛憎劇。またしても「覗き」が重要なモチーフになっている。「第一部 夏」の最後に曳航されて出航する船乗り・竜二を乗せた貨物船と、「第二部 冬」で息子らの仲間に殺されるために丘の…

砂の上の植物群

吉行淳之介著、新潮文庫 「性」をテーマにした作品を多く残した作家らしい作品。中年にさしかかった男の葛藤と、姉妹との(異常な)性愛、近親相姦(の恐れ)、亡父に対する複雑な感情などを重層的に描いている。自分も主人公の伊木一郎と同じ年ごろだからな…

一房の葡萄

有島武郎著、角川文庫 白樺派・有島武郎の童話集。短い作品が8編、全116ページとあっという間に読めた。 自殺する直前の晩年に書かれたものだという。いわゆる「ですます」調の文体は、童話らしいとも言えるが、話のテーマは、表題作「一房の葡萄」の窃…

天人五衰

三島由紀夫著、新潮文庫 「豊饒の海」4部作の完結編。老いた狂言回し(主人公?)本多が、松枝清顕からの転生の証拠である「三つの黒子」を持つ少年、透を養子にとる。それがとんだ「見当はずれ」になっていく。すべてを見通す人物としての本多が、天人が死…