あやしうらめしあなかなし

浅田次郎著、双葉文庫
あやし うらめし あな かなし (双葉文庫)
浅田次郎のホラーの連作短編集。霧笛荘夜話 - a follower of Mammonの方が作品の完成度は高いが、他の浅田作品にも散見される幽霊話などが集められ、浅田次郎らしい作品集とも言える。母親の実家である御岳山にまつわる話など、「自伝的」な意味合いも色濃い。
特によかったのは、六本木の旧防衛庁跡地東京ミッドタウン開発を題材にした「遠別離」。巻末のインタビューで元自衛官として何度も旧防衛庁に何度も行ったことがあるという浅田氏は次のように語っている。

だから僕は、あそこが再開発されると知ったときにね、防衛庁のときまで使われていた一聯隊の兵舎も全部なくなって、とうとう歴史に埋もれてしまうんだな、と思って、取材に行ったんです。そういう意味でこれは、僕なりのレクイエムですな。

若干、感傷的に過ぎるきらいがなきにしもあらずだが、これも小説というものの醍醐味の一つだと思う。