奔馬

三島由紀夫著、新潮文庫
豊饒の海 第二巻 奔馬 (ほんば) (新潮文庫)
豊饒の海(二)。松枝清顕の生まれ変わりである右翼青年、飯沼勲がテロを計画し、挫折しながらも、最後に「思い」を遂げる物語。20歳の若者の「きらめき」や、彼が思いを寄せる槙子の「本性」の描かれ方はすさまじいとさえ言える。また、途中までは勲らの計画に賛同しつつ、逃げ出す軍人や、我が身を守るためをもってのみ、結果的に勲を助けることになる宮様など、すべての「人間」がこの物語に登場すると言っても過言ではない。
清顕の「優雅」は、ここでは「純粋」に取って代わる。逮捕され、裁判を待つ勲が、思いを巡らす次の一文が、特に重く心に残った。

権力はどんな腐敗よりも純粋を怖れる性質があった。