2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)

村上春樹著、新潮文庫 どこか中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジーのような「世界の終り」と、巻き込まれ型のスパイ小説チックな「ハードボイルド・ワンダーランド」が交互に進行する80年代の作品。当初は全然関係ないと思われた二つの物語が、徐々にオ…

恋愛指南−アルス・アマトリア

オウィディウス著、沓掛良彦訳、岩波文庫 古代ローマの詩人による「恋愛指南書」。作者のオウィディウスは「愛の詩人」と呼ばれていたらしく、その愛の「技術」を伝授しようというもの。作者も巻末で「たわむれ」と書いているが、一種のパロディーだったらし…

書きあぐねている人のための小説入門

保坂和志著、中公文庫 保坂和志さんという人の小説を読んだことがなく、別に小説を書こうとして書きあぐねているわけでもない。ただ、何となく「小説を書くのって、具体的にどういう風にするのだろう」と考えているところがあって、08年11月発行の新刊本紹介…

江戸川乱歩短編集

千葉俊二編、岩波文庫 岩波文庫から昨年出た。怪人20面相の映画「K-20」が公開されたから、という訳ではないが、新聞記事か何かで紹介されているのを読んで、買ってみた。 収録作は、デビュー作の「二銭銅貨」や明智小五郎が初登場する「D坂の殺人事件」、名…

TRYING TO SAVE PIGGY SNEED

JOHN IRVING著、Ballantine Books ジョン・アーヴィングのメモワールや短編小説(彼は生涯で8編しか短編小説を書いていないらしい)、ディケンズの小説へのあとがきなどを集めた本。基本的に文字通りの長編ばかりを書いている印象のアーヴィングが、数こそ…

午後の曳航

三島由紀夫著、新潮文庫 船乗りと美しい未亡人、中学生になるその息子の愛憎劇。またしても「覗き」が重要なモチーフになっている。「第一部 夏」の最後に曳航されて出航する船乗り・竜二を乗せた貨物船と、「第二部 冬」で息子らの仲間に殺されるために丘の…

砂の上の植物群

吉行淳之介著、新潮文庫 「性」をテーマにした作品を多く残した作家らしい作品。中年にさしかかった男の葛藤と、姉妹との(異常な)性愛、近親相姦(の恐れ)、亡父に対する複雑な感情などを重層的に描いている。自分も主人公の伊木一郎と同じ年ごろだからな…

一房の葡萄

有島武郎著、角川文庫 白樺派・有島武郎の童話集。短い作品が8編、全116ページとあっという間に読めた。 自殺する直前の晩年に書かれたものだという。いわゆる「ですます」調の文体は、童話らしいとも言えるが、話のテーマは、表題作「一房の葡萄」の窃…

天人五衰

三島由紀夫著、新潮文庫 「豊饒の海」4部作の完結編。老いた狂言回し(主人公?)本多が、松枝清顕からの転生の証拠である「三つの黒子」を持つ少年、透を養子にとる。それがとんだ「見当はずれ」になっていく。すべてを見通す人物としての本多が、天人が死…

暁の寺

三島由紀夫著、新潮文庫 「輪廻転生」をテーマにした三島の遺作「豊饒の海」の第3巻。4部作の「起承転結」の「転」にあたる巻とされ、確かに過去2作では脇役というか、狂言回しに近い役回りだった本多が、完全に主役を演じることになる。1作目の春の雪 -…