お腹召しませ
浅田次郎著、中公文庫
「五郎治殿御始末」に続く浅田次郎氏の幕末短編集。「中央公論文芸賞」や「司馬遼太郎賞」の受賞作とのこと。評価が高かったようだ。
霧笛荘夜話 - a follower of Mammonをはじめ、浅田氏の連作的な短編集は、その「狂言回し」ぶりが鮮やかだ。本作は、小説家が祖父らから聞いた話などを物語に仕立て上げるという想定になっている(この「小説家」が浅田氏自身ではないか、と思わせる部分もあるが、おそらく架空の人物であろう)。特に、物語が終わってからも、この小説家にその後(の「想像」)を語らせたりしているのがいかにも手練を感じさせる。例えば、「女敵討」では
物語に書きおおせなかった行末を、私は勝手に想像する。
という風に。
また、この短編集を読んで感じる、「同時代感」のようなものは、竹中平蔵(あの「竹中平蔵」である)氏の「解説」に次のように説明されている。
第一は、社会のしがらみのなかで人生を「リセット」することへの願望、ないしは一時的に現実から遊離する、つまり「トリップ」することへの願望だ。
幕末というまさに日本社会が「リセット」された時代が、どうも現代とシンクロしているような気がしてならない。