生物と無生物のあいだ

福岡伸一著、講談社現代新書
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
著者は「分子生物学者」。細胞やら遺伝子やらを研究している人らしい。特別、この分野に興味があったわけではないが、ベストセラーになっているようなので、買ってみた。
いわゆる「研究者」と呼ばれる人たちの生活が紹介されているのはなかなか、面白い。特にDNAの2重らせん構造の解明を巡る研究者同士の激しいレースはなかなか読み応えがあった。後段の具体的な研究の話は、少なくとも私にはほどんど理解できなかった。一般の人たちには理解できる人も多いのかもしれないが、おそらく、売れている要因は前段の、研究者たちの人間くささを描いた部分であろう。
特に導入部分の挿話である野口英世についてのロックフェラー大学の広報誌の引用が印象的である。

彼の業績、すなわち梅毒、ポリオ、狂犬病、あるいは黄熱病の研究成果は当時こそ賞賛を受けたが、多くの結果は矛盾と混乱に満ちたものだった。その後、間違いだったことが判明したものもある。

千円札に採用されたことで、日本人観光客が増えたことを揶揄する記事だそうだが、日本人に対するステレオタイプな揶揄を感じ取れないでもない。私自身には野口の業績が本当に意味がないものだったのかどうかは判断のしようがないが、本書では少なくとも電子顕微鏡が表れる前の野口の研究を「見ようとして見えなかったもの」としている点は一定の評価ができる。ただ、野口の業績を否定するならするで、もう少しこの点に紙幅を費やして欲しかった。本書の書き方では「実は日本人はガイジンからこう見られている」というようなテレビのバラエティー番組の域を出ていないと思う。