キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る

木村晋介著、筑摩書房
キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る
椎名誠氏の友人である「キムラ弁護士」による書評集。題名にあるとおり、ミステリー小説の矛盾点や問題点を切り捨てるという趣旨で始まっている。ただ、取り上げている作品は「恋愛・家族小説」や「ロングセラー・ベストセラー」に及び、収録されている37話のうち、「ミステリー編」は半分にすぎない。私はあまり「ミステリーモノ」と呼ばれる小説分野を好んで読む方ではないので、この方がありがたかったと言えば、ありがたかった。題名だけで購入した者としては若干、拍子抜けすることは請け合い。
内容的にも最初の「マークスの山」や「半落ち」などに対する分析は、なるほど題名の通りだったが、進むに従って「完敗」が多くなる。「冬のソナタ」に号泣したあたりはドン引きの気がなくもなかった。
しかし、題名からの乖離にこだわらなければ、木村弁護士のヒューマニズムは健在で、満足のいく内容。ウイークデイにもかかわらず、1日で読了してしまった。むしろ、ケンカに破れ続ける(「ケンカを売っていないじゃないか」とさえ思える部分も多い)部分にこそ、著者の人間性がにじみ出ているのではないだろうか。
書評としても、たまたま自宅の本棚で見つけた「いま、会いにゆきます」を「読んでみようかな」という気にさせるに十分だった。また、「名もなき毒」(宮部みゆき著)についてのこんなくだりには考えさせられた。

 われわれ弁護士は、ほとんどの場合、被告人を弁護すること、即ち、国家という、被告人に対して懲罰権を行使してくる「権力」と戦っていくことが使命と信じ、その仕事に神聖なものを感じて仕事をしている。しかし、同時に、その被告人が犯した犯罪こそが、一種の権力の行使だったのではないだろうかとの疑問にさいなまされることがあるのである。