東京奇譚集

村上春樹著、新潮文庫
東京奇譚集 (新潮文庫)
東京を舞台にした奇妙な物語が5本。作品としての完成度、語り口の妙は最初に収録されている「偶然の旅人」が優れていると思ったが、最後の「品川猿」もなかなか震えた。若干、物語の深みは犠牲になったようだが、短編らしい「鮮やかな転換」には成功していたと思う。
これまで、なぜか村上春樹の作品は避けてきた。学生時代に「ノルウェイの森」が話題になったが、未読のまま。しかし、一連の新訳は単行本にかかわらず購入している(新作「ティファニーで朝食を」も注文した)し、長編小説も徐々に読んでみようかという気になってきた。長編で唯一既読の「海辺のカフカ」にはあまり関心しなかったにもかかわらずである。それに、本書を読んでいていて、しつこい比喩に若干うんざりすることもあった。たとえば「どこであれそれが見つかりそうな場所で」の

まるで棒を投げても取りにいかない犬を見るような目で私を見た。

など。それでも読みたいという衝動が沸いてくる。自分のことながら、ちょっと不思議な気がする。