2010-01-01から1年間の記事一覧

瀕死のライオン(下)

麻生幾著、幻冬舎文庫 書名の「瀕死のライオン」は、北朝鮮の工作員(傭兵)が自らを重ね合わせる銅像として物語に登場するが、特にこの下巻においては自衛隊の特殊部隊の(悲惨な)運命に重点が置かれる。また、世田谷一家殺人事件を思わせる事件が北朝鮮工…

瀕死のライオン(上)

麻生幾著、幻冬舎文庫 麻生氏の作品はこれまで、読んだことがなかったが、丸善で新刊文庫コーナーにあったものを何となく購入。自衛隊の特殊部隊と、北朝鮮の工作員を描く。内調や官邸など、「政治」もきっちり描かれており、最近出た作品らしく、政権交代後…

かのこちゃんとマドレーヌ夫人

万城目学著、ちくまプリマー新書 新書判の書き下ろし小説。小学1年生の女の子「かのこちゃん」と、外飼いの猫「マドレーヌ夫人」の日常を描いた物語。猫たちは人間の言葉をある程度解し、マドレーヌ夫人に至ってはかのこちゃんの飼い犬と結婚しているという…

きつねのはなし

森見登美彦著、新潮文庫 これまでの作品と作風をがらっと変えた森見氏の怪談集。舞台はやはり京都だが、ギャグ的な要素は一切廃す。四つの中編から成り、狐の面や「ケモノ」、骨董屋の「芳蓮堂」など共通項が出てくるのは、四畳半神話大系 - a follower of M…

ザ・万歩計

万城目学著、文春文庫 万城目氏のエッセー集。正直言って小説かと思って購入した。 若い作家だけに、話に「深み」はないものの、人となりはよく出ている。特に率直さはよく現れていて、梅田の書店にあった、自らの著書のポップ 「三分の一までガマン! あと…

太陽の塔

森見登美彦著、新潮文庫 日本ファンタジーノベル大賞を受賞した森見氏のデビュー作。(例によって恐らく)京大生が、恋人に振られたいきさつを振り返るという物語。デビュー作らしく、お約束になっていく詭弁論部やら何やらは出て来ず、何となくその手のアイ…

パレード

吉田修一著、幻冬舎文庫 最近「悪人」が映画化されて話題の吉田修一氏の作品を初めて読んでみた。実際は新訳 走れメロス他四篇 - a follower of Mammonの前に読み終えていたが、ブログにアップするのを忘れていた。 若い男女4人がマンションの一室に住むと…

新訳 走れメロス他四篇

森見登美彦著、祥伝社文庫 太宰治の「走れメロス」や中島敦の「山月記」、芥川龍之介の「藪の中」など日本文学の名作の舞台を現代の京都に置き換え、大学生を主人公にした「森見氏流」の新訳。語り口は毎度おなじみのもので、「走れメロス」では主人公が約束…

有頂天家族

森見登美彦著、幻冬舎文庫 森見氏の今回の作品は、やはり奇抜な設定で、狸一家が主人公。京都を舞台に、化けながら人間のような生活をしている狸と、人間、天狗が織りなすドタバタ劇となっている。物語の軸は、狸の頭領たる「偽右衛門」就任を巡る騒動で、子…

the five people you meet in heaven

Mitch Albom著、HYPERION刊 米コラムニスト、アルボムによる(恐らく初の)小説。tuesdays with Morrie - a follower of Mammonと同様、丸善のセールで購入。著者のことは何も知らず購入したが、いずれもいい作品だった。 アメリカの遊園地のメンテナンス工…

芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか

市川真人著、幻冬舎新書 題名の通り、村上春樹がなぜ芥川賞を取らなかったか、を糸口に、日本文学(小説)の歴史を概観する。今「旬」の批評家らしく、語り口は軽妙。比較的知られている村上作品の「父性の不在」と、アメリカという日本にとっての「父」に結…

tuesdays with Morrie

Mitch Albom著、timewarner paperbacks 丸善の洋書フェアにて500円で購入。米国の(スポーツ)コラムニストが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)に冒された大学時代の恩師との最後の日々を記した。文体は平易で、あっという間に読み終えた。 親しい人の死と向き…

恋愛論

竹田青嗣著、ちくま学芸文庫 毎日新聞の書評に取り上げられていて、面白そうだったので購入した。プラトニックの語源となったプラトンに始まり、スタンダールやトルストイ、ドストエフスキーなどの作品から、恋愛を巡る「哲学」を論じる。 観念的な話は苦手…

四畳半神話大系

森見登美彦著、角川文庫 森見氏の2作目の長篇。大仰なタイトルだが、夜は短し歩けよ乙女 - a follower of Mammonと同様、主人公は四畳半に住む(おそらく京大の)大学生で、うだつの上がらない大学生活を嘆く。新入生の時に勧誘ビラをもらった四つのサーク…

A THOUSAND YEARS OF GOOD PRAYERS

Yiyun Li著、HARPER PERENNIAL 米国で暮らす中国人女性作家(どうやら不法滞在らしい)の短編集。最近、「千年の祈り」と題する翻訳本が出て評判がよかったため、購入した。 題材は、米国で暮らす中国人の思いだけでなく、北京や農村部など、現代中国の人々…

鴨川ホルモー

万城目学著、角川文庫 万城目氏のデビュー作。京都の四大学のサークルが、「ホルモー」と呼ばれる伝統の「戦い」をする。戦いで使うのは ここで、親指と人差し指でマルを描き、そこにすっぽり入るくらいの茶巾絞りを思い浮かべてもらいたい。身長はせいぜい…

夜は短し歩けよ乙女

森見登美彦著、角川文庫 「鹿男」の万城目学氏と同じ京大出身の若手作家による作品。京大を舞台とするコミカルな恋愛物語。サークルの後輩である「黒髪の乙女」に一目惚れした主人公が、夜の先斗町や学園祭などで彼女を追いかけますさまを独特の語り口で描く…

Twenty-One Stories

Graham Greene著、Penguin Classics グレアム・グリーンの短編集。文字通り21の物語が収められている。比較的難解な単語がけっこうあり、読み進めるのに苦労するところもあったが、話の流れといい、結末の鮮やかさや残す余韻といい、まさに「名ストーリー…

鹿男あをによし

万城目学著、幻冬舎文庫 何かと話題の万城目学氏の小説第2作。奈良を舞台に、京都、大阪と、それぞれにまつわる動物(鹿、狐、鼠)が絡み繰り広げられる「救国」物語。主人公は、大学の研究所を体よく追い出された女子校の教師で、「坊ちゃん」のパロディー…

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

リリー・フランキー著、新潮文庫 「本屋大賞」を取るなど、かつて話題になった「東京タワー」がついに文庫化、ということで、早速購入した。単行本の発売が2005年ということだから、すでに5年。話の内容は、フランキー氏の母親との半生を描いたもので、多少…

作家とは何か−小説道場・総論

森村誠一著、角川oneテーマ21 小説の書き方−小説道場・実践編 - a follower of Mammonの前編(こちらに「あとがき」があることを考えると、後編かもしれない)。タイトル通り「作家とは何か」についての論評で、他人に読まれることを意識せよ、といった精神…

本気で小説を書きたい人のためのガイドブック

ダ・ヴィンチ編集部、メディアファクトリー 雑誌「ダ・ヴィンチ」編集部による、「小説作法本」。「書き方」よりも、(「ダ・ヴィンチ」も持っている)文学賞の取り方といった作家の「なり方」の方に力点が置かれている。実際の作家のインタビューや寄稿がた…

告白

湊かなえ著、双葉文庫 本屋大賞受賞作で、松たか子主演で近く映画が公開される。そのためか、ものすごい売れ行きのようなので、読んでみた。 退職前、最後のホームルームで、シングルマザーの教師が「娘は、このクラスの生徒に殺された」と衝撃の「告発」を…

小説の書き方−小説道場・実践編

森村誠一著、角川oneテーマ21 丸善でたまたま見つけて購入。昨年4月に初版発行とあるから、比較的新しい。「忠臣蔵」のストーリーを小説の「最高のお手本」としているのはなるほどと思うなど、この手の小説作法本の中では大いに参考になる部類だろう。むし…

On Writing-A MEMOIR OF THE CRAFT

Stephen King著、POCKET BOOKS 現代の「スリラーの文豪」とも言えるスティーブン・キングの小説作法指南書。生い立ちから作家になるまでを記した自伝と、小説執筆に取り組む姿勢を中心とした指南の2部構成になっている。貧しい家庭に生まれて、肉体労働に従…

推理小説作法

江戸川乱歩、松本清張共編、光文社文庫 背表紙の表現を借りれば、「日本ミステリー界の二大巨頭が編者を務めた伝説的な名著を半世紀ぶりに復刊」とのこと。この2人のみならず、同時代の推理作家や評論家らがテーマごとに書いた「推理小説」についてのエッセ…

田宮模型の仕事

田宮俊作著、文春文庫 プラモデルで知られる「タミヤ」の社長による会社の「自伝」。静岡の製材屋から木製模型、プラモへと進化し、世界で取材、営業をする姿は、ソニーの成功譚を彷彿とさせる。特に、模型とは直接関係ないが、イスラエルへの取材旅行の際の…

翻訳夜話2 サリンジャー戦記

村上春樹、柴田元幸著、文春新書 村上氏と翻訳家・柴田氏の翻訳についての対話の続編。村上氏が翻訳した「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の宣伝のための対談が中心となっている。そのためか、どちらかと言えば、作品そのものについての考察(ホールデンはサ…

翻訳夜話

村上春樹、柴田元幸著、文春新書 村上氏と、翻訳家で東大助教授の柴田氏のパネルディスカッションのようなセッションをまとめた。東大での授業、翻訳学校、若手翻訳家とのミーティングの3回に分かれている。いずれも90年代後半に行われた話で、本書の初版…

レディ・ジョーカー(下)

高村薫著、新潮文庫 レディ・ジョーカーもいよいよ完結。物語はクライマックスに向けてスピードアップしていくが、逆にそれまでのじっくりとした描写から比べると、終盤は粗い印象を持った。雑誌連載の「尺」の問題もあるのかと思ったが、文庫化にあたって相…