UNTIL I FIND YOU

John Irving著、BALLANTINE BOOKS
Until I Find You: A Novel
ジョン・アーヴィングの自伝的要素が強いとされる作品。このニューヨークタイムズの記事While Excavating Past, John Irving Finds His Familyを読んだことがきっかけで購入。
父に捨てられた(と思っていた)男の、幼年時代から人気俳優として成功する30代中盤までの一種の成長譚。
アーヴィング氏の作品は同じようなプロットやメタファーをよく使う。本作はある意味で一つの区切りとなる作品らしく、てんこ盛りである。北欧、ニューイングランド、カナダ、レスリング、性的倒錯などおなじみの風景、おなじみの世界。多作品に比べて、テンポや切れ味が若干劣るように感じるのは、著者の思い入れが強すぎたためか。正直言って、著者が得意とするエンディングの鮮やかさも欠いていた。
820頁の大書。時として読み進めるのがつらくなる分量だが、それでも最初の4歳だった主人公・ジャックと母親の北欧旅行の「記憶」と、その後30歳を過ぎてからのジャックの再訪の「現実」のズレを描くに際し、いい効果があったと思う。再訪のくだりを読んでいる読者は、だいぶ前に読んだ4歳の旅をおぼろげにしか記憶していないのだ。それがちょうどジャックが4歳の旅を思い返すのと同じような印象を読者に抱かせる(少なくとも私には抱かせた)効果があると思う。
確かに小説としてはこれまでの名作よりは見劣りする。しかし、いずれにしても、ファンは読まなければならない作品だろう。著者の思い入れの詰まった、渾身の作であることは確かだろう。