レディ・ジョーカー(下)

高村薫著、新潮文庫
レディ・ジョーカー 下 (新潮文庫)
レディ・ジョーカーもいよいよ完結。物語はクライマックスに向けてスピードアップしていくが、逆にそれまでのじっくりとした描写から比べると、終盤は粗い印象を持った。雑誌連載の「尺」の問題もあるのかと思ったが、文庫化にあたって相当加筆・修正されているようなので、意図したものなのだろう。未解決のままの「グリ・森事件」の、著者なりの解釈はうなずけたが、登場人物たちの来し方行く末をもう少しじっくり読みたかった。
ただ、描写という意味では、著者の観察眼は生かされている。例えば、自民党の大物政治家、酒田泰一については、次のように生き生きとしていた。

政治家の六十五歳は、市井の同世代よりはるかに血色がよく、足腰もしっかりしているのが通例だが、酒田もそうだった。党の三役と大蔵大臣を歴任してきた最大派閥の領袖という立場の重さより、権力というゲームが習い性となった躁状態の身軽さを感じさせられる。

さて、高村氏の著作はこの後、「晴子情歌」などいわゆる純文学路線となるが、その3作目、「太陽を曳く馬」で再び合田刑事が登場するという。文庫としてそれを読めるのは、はたしていつのことになるか。