きつねのはなし

森見登美彦著、新潮文庫
きつねのはなし (新潮文庫)
これまでの作品と作風をがらっと変えた森見氏の怪談集。舞台はやはり京都だが、ギャグ的な要素は一切廃す。四つの中編から成り、狐の面や「ケモノ」、骨董屋の「芳蓮堂」など共通項が出てくるのは、四畳半神話大系 - a follower of Mammonを思わせるが、やはり雰囲気は思い。例えば、森見作品で繰り返し使われるモチーフである「先輩」も、次のように登場する。

 電気ヒーターで指先を温めながら物語る先輩の横顔や、文机の上にある黒革の大判ノート、部屋に積み上げられた古本の匂い、電燈の笠にからみつくパイプ煙草の濃い煙――大学に入ったばかりの私には、京都の街で行き当たる一切が物珍しく見えたためでもあるだろう、先輩にまつわることはその一つ一つが琥珀へ封じられたような甘い色を帯びて、記憶の中にある。

ただ、私には、これまでの作品の方が合っていた。むしろ読み進めるのに苦労した作品だった。