芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか

市川真人著、幻冬舎新書
芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか―擬態するニッポンの小説 (幻冬舎新書)
題名の通り、村上春樹がなぜ芥川賞を取らなかったか、を糸口に、日本文学(小説)の歴史を概観する。今「旬」の批評家らしく、語り口は軽妙。比較的知られている村上作品の「父性の不在」と、アメリカという日本にとっての「父」に結びつけ、興味深い。
また、教科書の定番「走れメロス」についての「誤解」を入り口に義務教育の問題にも切り込んでいる。たとえば「国語」については

近代国家の「計画」としては、教育の主たる目的が相互にコミュニケーションのとれる均質な労働力を供給していくことである以上、意外かつ独創的な回答よりも、おたがいに予測可能な範囲の「内面」を想像することのほうが好都合なのは当然で、筆者の含めさまざまな場所で「教育」にかかわる人間が無意識のうちにも直面するとまどいは、そういうところにも由来しています。

としている。