翻訳夜話
村上春樹、柴田元幸著、文春新書
村上氏と、翻訳家で東大助教授の柴田氏のパネルディスカッションのようなセッションをまとめた。東大での授業、翻訳学校、若手翻訳家とのミーティングの3回に分かれている。いずれも90年代後半に行われた話で、本書の初版も「平成12年」とあるから、村上氏が「キャッチャー・イン・ザ・ライ」やら「ロング・グッドバイ」やら、いわゆる村上訳ものとして有名になる作品に取りかかる前の話となっている。
一人称の訳し方など実践的な内容も多いが、印象に残ったのは、村上氏による「訳書論」のような部分。アーヴィングの「A Prayer for Owen Meany」について
あれも最近になってやっと出たけど、十年くらい翻訳にかかってますね。ジョン・アーヴィングぐらいのランクの同時代作家になれば、やはり時系列的に、あまり遅くならないようにして翻訳を出していくべきですよね。
と語る。なかなか訳書が出ない理由については、柴田氏が冗談めかして訳者に帰する程度で、詳しくは語られないが、理由は気になるところではある。
また、2人が「競訳」したカーヴァーとオースターの作品も収録されている。翻訳そのものの話からは脱線するが、オースターの作品「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」の面白さが目を引いた。昔、題名は忘れたが、幻想的な作品を読んでついていけなかった記憶があるが、こういう話なら、もっと読んでみたいと思った。