つばさよつばさ

浅田次郎著、小学館文庫
つばさよつばさ〔文庫〕 (小学館文庫)
浅田氏の旅にまつわるエッセー集。JALの機内誌の連載をまとめたものらしい。一時期、JAL便にはかなり乗り、機内誌も愛読していたつもりだったが、なぜかこのエッセーを読んだ記憶がない。
旅にまつわるとはいえ、話題は多岐にわたる。洒脱かつ浅田氏らしい笑いがちりばめられた文章で、電車の中で読んで思わず吹き出し、往生した。同じく泣きそうになって困った「月下の恋人」と同じ作者とは思えない。
いわゆるやっつけで書かれていると思われるもの(「水戸肛門科」を探す話など)もあるが、蘊蓄たっぷりと妙なイマジネーション満載で楽しめる。例えば、外国通貨の話で、日本の紙幣の肖像画について次のような想像を巡らす。

福沢諭吉の留任はまあいいとして、もし仮に「苦難を耐え忍べ」という暗意をこめて、これを石川啄木に変え、啄木、一葉、英世のトリオを揃えてしまったら、当分の間は景気上昇も夢であったろう。

また「浅田次郎」のペンネームの由来に若干、誤解があったことも知った。初めて入選だか出版された作品の主人公の名だとばかり思っていたが、ボツ原稿のそれであったようだ。