一房の葡萄

有島武郎著、角川文庫
一房の葡萄 (角川文庫クラシックス)
白樺派有島武郎の童話集。短い作品が8編、全116ページとあっという間に読めた。
自殺する直前の晩年に書かれたものだという。いわゆる「ですます」調の文体は、童話らしいとも言えるが、話のテーマは、表題作「一房の葡萄」の窃盗や、「火事とポチ」の火災など、リアルなものばかりで、若干、「子供向け」とは言い難いものがある。
ただ、子供らしい心情も描き、「さすが」と思わせる部分も多い。例えば、幼い弟が碁石をのどに詰まらせる「碁石を飲んだ八っちゃん」の、碁石でウサギとカメの形をつくって遊んでいた主人公の「兄」の、次のようなくだり。

でもそうすると亀のほうが大きくなり過ぎて、兎が居眠りしないでも亀のほうが駆けっこに勝ちそうだった。だからこまっちゃった。

「子供に伝えたい」という真摯な思いが伝わってきた。