バスジャック

三崎亜記著、集英社文庫
バスジャック (集英社文庫)
「となり町戦争」に続く著者2作目は、短編集。摩訶不思議な設定をした作品が7編収められている。10年ぐらい前の「西鉄バスジャック事件」がヒントになったとみられる「バスジャック」は、バスジャックがある種の競技化されている非現実的な世界を、現実的な筆致で描いている。例えば、「作法」を説く新書まで登場させ

 磯村は、バスジャックを「乗客と蜂起者とが緊張の中で次第に一蓮托生化していくことで生じるダイナミズムと、胎内回帰欲求を満たす閉鎖領域での充足性、そしてなによりミステリー旅行的なロマンを兼ね備えていなければならない」と定義づけた。

と記す。
自宅の2階にドアを設置することが義務付けられた町を描いた「二階扉をつけてください」など奇抜な設定には驚かされるが、どこか読者を突き放すような読感が気になった。おそらく偽物的な雰囲気を消すため、客観的に描こうとするあまりなのであろうが。そういう意味では、「死」と向き合うという人間の根源的な営みを描いた最後の収録作品「送りの夏」が最上の作品だと思えた。