書きあぐねている人のための小説入門

保坂和志著、中公文庫
書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)
保坂和志さんという人の小説を読んだことがなく、別に小説を書こうとして書きあぐねているわけでもない。ただ、何となく「小説を書くのって、具体的にどういう風にするのだろう」と考えているところがあって、08年11月発行の新刊本紹介か何かで目にとまって購入した。
例によって(というのは、この手の本ではよくあることだが、という意味で)この筆者も小説執筆のための「ハウツー本」たることを否定しているが、それなら書名を変えるべきだろう。私は前述の通り、必ずしも小説を書こうとしているわけではないので、別にいいのだが、この題名を見たら、普通は「ハウツー本」を期待するのではないだろうか。「アンチ・ハウツー」を強く意識しているためか、内容はかなり抽象的(著者は抽象論の重要性も繰り返し説いている)。巻末に文庫版の付録として、作者の小説ごとに、執筆当時の生活などが記された「創作ノート」なるものがあり、(作品を読んでいないにもかかわらず)そちらの方が楽しめた。例えば、保坂さんが勤めていた西武百貨店を退社するくだり。

 会社を辞めるということは、プッツンと何かが切れることで、辞表を提出するときに将来設計が立っている人なんかほとんどいない。将来のことなんか見えていなくても、辞めるときは辞める。

この時に保坂さんは既に「野間文芸新人賞」を受賞して、小説家としてデビューしていたので、本当に「何もない」状態で会社を辞めることとは違うと思うが、それでも参考になった。むしろ小説論よりも、と言ったら言い過ぎか。