容疑者Xの献身

東野圭吾著、文春文庫
容疑者Xの献身 (文春文庫)
東野圭吾氏の直木賞受賞作。東野作品は題名は忘れたものの、以前にも1冊読んだことがあった気がするが、いわゆる「ガリレオシリーズ」は初めてである。
この手の物語は、読みながら種を当てるとともに、あらを探してしまう癖がある。だが、本作は、意図的なのかどうかは分からないが、簡単に種やあらが見つかりそうな物語の進み方をする。多少大げさな言い方をすれば、「思い込み」にだまされるのは物語中の警察だけではなく、読者もそうであると言える。例えば「容疑者X」たる石神に刑事が学校の勤怠表を見せる場面。

「これによりますと、先生は十一日の午前中、授業を休んでおられますね。学校に出てこられたのは午後からとなっています。何かあったのですか」

石神ほどの天才が、こんなミスをするのかと思わず「あら」を見つけたような気になってしまった。
ただ、詳しくは書かないが、現代警察をだますには、やはり石神の「種」はちょっと無理があるのではないか、という気がする。例えば、指紋とか。警察の国民管理というのは、現実には相当進んでいるはず。もちろん「思い込みで確認を怠る」ということは警察にもあるのだろうが、石神がそこまで読んでいたとは思えない。