月下の恋人

浅田次郎著、光文社
月下の恋人 (光文社文庫)
久しぶりの浅田作品。いわゆる「泣かせ・幻想系」の短編集で、「鉄道員」の系譜に連なる。種明かしがないまま終わる作品も見られるなど、ストーリーテリングの名手にしてはいまいちな作品もあるが、「泣かせ」の部分はさすが。「告白」などは電車に乗りながら読んでいて、涙が出そうになって往生した。
また、どちらかと言えば、男女の機微を描くことがそれほど得意ではないと見られている浅田氏だが、表題作「月下の恋人」の次のようなくだりはなかなかのものだった。

 何ごともなかったようにもとのともだちに戻るには、三年という歳月が重すぎた。そうかといって、結婚という永遠の愛の結論を出すには、二十一歳という年齢が若すぎた。

著者本人が「補遺」で述べているように、多少「大時代な文章」という気がしなくもないが。