砂の上の植物群

吉行淳之介著、新潮文庫
「性」をテーマにした作品を多く残した作家らしい作品。中年にさしかかった男の葛藤と、姉妹との(異常な)性愛、近親相姦(の恐れ)、亡父に対する複雑な感情などを重層的に描いている。自分も主人公の伊木一郎と同じ年ごろだからなのかもしれないが、芥川賞受賞作の「驟雨」など初期作品よりも心に迫るものがあった。また、その心象の表現が巧みで、さりげない。例えば、本編の後に収録された創作スケッチ的な作品「樹々は緑か」の一節。伊木が亡父の友人だった山田が勤める理髪店で散髪した後の場面。

鏡に映っている自分の頭が、自分の剥き出しにされた心のように、伊木の眼に映ったのだ。

髪が短くなり「少年風」になったことが、定時制高校の教え子に対する慕情をひきおこす。そこまで具体的な何かではなくとも、散髪後に感じる漠然とした不安感、何となく頼りない心地、をうまく描写していると思った。