午後の曳航

三島由紀夫著、新潮文庫
午後の曳航 (新潮文庫)
船乗りと美しい未亡人、中学生になるその息子の愛憎劇。またしても「覗き」が重要なモチーフになっている。「第一部 夏」の最後に曳航されて出航する船乗り・竜二を乗せた貨物船と、「第二部 冬」で息子らの仲間に殺されるために丘の上に連れて行かれる竜二が対照的に描かれた構成は見事。ただ、息子とその仲間の異様な早熟さはともかくとして、全体的に話が「ありきたり」な感じを受けるのは、舞台が「この手の話向き」過ぎるとも言える横浜だからか。
また、未亡人と初めて一夜をともにした竜二に対し

「又夜分にはお帰りでしょ」

と家政婦に言わせるあたりはいかにも三島的であった。しかし、なぜか物語を彩る唯一の女性とも言える肝心の未亡人にリアリティーというか、「顔」がないような気がした。