世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下)

村上春樹著、新潮文庫
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)
二つの話は徐々にオーバーラップし、一角獣の頭骨の「変化」によって同時進行の物語だということが分かる。「ハードボイルド」に関しては、博士と再会して「種明かし」が済んで地底を脱出した後は、それまでのサスペンス性は影を潜め、いかにも村上的な「おしゃれな会話」の物語になる。逆に「世界の終り」が世界からの脱出に向けてハラハラさせてくれるようになる。
それにしてもこの世界、「ハードボイルド」では博士の口から

思念の中に入った人間は不死なのです。正確には不死ではなくとも、限りなく不死に近いのです。永遠の生です。

と語らせ、「世界の終り」では大佐の口から

誰も傷つかないし、誰も傷つけない。誰も追い越さないし、誰にも追い抜かれない。勝利もなく、敗北もない。

と語られている。安穏への憧憬と同時に、それを拒否する強い思いが作らせた世界なのか。「ハードボイルド」の「私」の、その辺の背景がもう少し読みたかった。