文庫

中原の虹2

浅田次郎著、講談社文庫 張作霖がますます権勢を拡大するとともに、「蒼穹の昴」の主人公たち、李春雲や梁文秀らの活躍が描かれ、物語は勢いを増す。やがて西太后は死に、ついに清朝が倒れる。ここまでがおおむねこの2巻で語られる。 そんな中、脇役のキャ…

中原の虹1

浅田次郎著、講談社文庫 いよいよ「蒼穹の昴」第3部、「中原の虹」に手を付けた。「蒼穹」の主人公、春雲の兄・春雷がこちらでは主役。満州の馬賊(日本風に言えばヤクザのようなもののようだ)の頭領たる張サクリンの手下となって活躍する。「蒼穹」とのス…

ガンダムの常識 一年戦争篇

双葉V文庫 モビルスーツの性能から、登場人物たちの年齢まで、いわゆる「ファースト ガンダム」の世界の「設定」をまとめた。著者名は明記されず、巻末に「ライティング」として5人の名前が掲載されている。聞いたことがない人ばかりだが、マニアなのか、…

走ることについて語るときに僕の語ること

村上春樹著、文春文庫 マラソンランナーとしても知られる村上氏の走ることについてのエッセー集。走ることについての思いと、2005年から06年にかけてのトレーニングの模様などが日記のような形でつづられる。 30代前半で走り始め、トレーニングとし…

ちくま文学の森1 美しい恋の物語

筑摩書房 森毅、井上ひさしらが編者となって、特定のテーマの国内外の作品を集めて刊行する「ちくま文学の森」シリーズの第1巻。島崎藤村の有名な詩「初恋」にはじまり、堀辰雄、アンデルセン、ヘッセ、伊藤左千夫、菊池寛、スタンダール、バルザックら錚々…

瀕死のライオン(下)

麻生幾著、幻冬舎文庫 書名の「瀕死のライオン」は、北朝鮮の工作員(傭兵)が自らを重ね合わせる銅像として物語に登場するが、特にこの下巻においては自衛隊の特殊部隊の(悲惨な)運命に重点が置かれる。また、世田谷一家殺人事件を思わせる事件が北朝鮮工…

瀕死のライオン(上)

麻生幾著、幻冬舎文庫 麻生氏の作品はこれまで、読んだことがなかったが、丸善で新刊文庫コーナーにあったものを何となく購入。自衛隊の特殊部隊と、北朝鮮の工作員を描く。内調や官邸など、「政治」もきっちり描かれており、最近出た作品らしく、政権交代後…

きつねのはなし

森見登美彦著、新潮文庫 これまでの作品と作風をがらっと変えた森見氏の怪談集。舞台はやはり京都だが、ギャグ的な要素は一切廃す。四つの中編から成り、狐の面や「ケモノ」、骨董屋の「芳蓮堂」など共通項が出てくるのは、四畳半神話大系 - a follower of M…

ザ・万歩計

万城目学著、文春文庫 万城目氏のエッセー集。正直言って小説かと思って購入した。 若い作家だけに、話に「深み」はないものの、人となりはよく出ている。特に率直さはよく現れていて、梅田の書店にあった、自らの著書のポップ 「三分の一までガマン! あと…

太陽の塔

森見登美彦著、新潮文庫 日本ファンタジーノベル大賞を受賞した森見氏のデビュー作。(例によって恐らく)京大生が、恋人に振られたいきさつを振り返るという物語。デビュー作らしく、お約束になっていく詭弁論部やら何やらは出て来ず、何となくその手のアイ…

パレード

吉田修一著、幻冬舎文庫 最近「悪人」が映画化されて話題の吉田修一氏の作品を初めて読んでみた。実際は新訳 走れメロス他四篇 - a follower of Mammonの前に読み終えていたが、ブログにアップするのを忘れていた。 若い男女4人がマンションの一室に住むと…

新訳 走れメロス他四篇

森見登美彦著、祥伝社文庫 太宰治の「走れメロス」や中島敦の「山月記」、芥川龍之介の「藪の中」など日本文学の名作の舞台を現代の京都に置き換え、大学生を主人公にした「森見氏流」の新訳。語り口は毎度おなじみのもので、「走れメロス」では主人公が約束…

有頂天家族

森見登美彦著、幻冬舎文庫 森見氏の今回の作品は、やはり奇抜な設定で、狸一家が主人公。京都を舞台に、化けながら人間のような生活をしている狸と、人間、天狗が織りなすドタバタ劇となっている。物語の軸は、狸の頭領たる「偽右衛門」就任を巡る騒動で、子…

恋愛論

竹田青嗣著、ちくま学芸文庫 毎日新聞の書評に取り上げられていて、面白そうだったので購入した。プラトニックの語源となったプラトンに始まり、スタンダールやトルストイ、ドストエフスキーなどの作品から、恋愛を巡る「哲学」を論じる。 観念的な話は苦手…

四畳半神話大系

森見登美彦著、角川文庫 森見氏の2作目の長篇。大仰なタイトルだが、夜は短し歩けよ乙女 - a follower of Mammonと同様、主人公は四畳半に住む(おそらく京大の)大学生で、うだつの上がらない大学生活を嘆く。新入生の時に勧誘ビラをもらった四つのサーク…

鴨川ホルモー

万城目学著、角川文庫 万城目氏のデビュー作。京都の四大学のサークルが、「ホルモー」と呼ばれる伝統の「戦い」をする。戦いで使うのは ここで、親指と人差し指でマルを描き、そこにすっぽり入るくらいの茶巾絞りを思い浮かべてもらいたい。身長はせいぜい…

夜は短し歩けよ乙女

森見登美彦著、角川文庫 「鹿男」の万城目学氏と同じ京大出身の若手作家による作品。京大を舞台とするコミカルな恋愛物語。サークルの後輩である「黒髪の乙女」に一目惚れした主人公が、夜の先斗町や学園祭などで彼女を追いかけますさまを独特の語り口で描く…

鹿男あをによし

万城目学著、幻冬舎文庫 何かと話題の万城目学氏の小説第2作。奈良を舞台に、京都、大阪と、それぞれにまつわる動物(鹿、狐、鼠)が絡み繰り広げられる「救国」物語。主人公は、大学の研究所を体よく追い出された女子校の教師で、「坊ちゃん」のパロディー…

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

リリー・フランキー著、新潮文庫 「本屋大賞」を取るなど、かつて話題になった「東京タワー」がついに文庫化、ということで、早速購入した。単行本の発売が2005年ということだから、すでに5年。話の内容は、フランキー氏の母親との半生を描いたもので、多少…

告白

湊かなえ著、双葉文庫 本屋大賞受賞作で、松たか子主演で近く映画が公開される。そのためか、ものすごい売れ行きのようなので、読んでみた。 退職前、最後のホームルームで、シングルマザーの教師が「娘は、このクラスの生徒に殺された」と衝撃の「告発」を…

推理小説作法

江戸川乱歩、松本清張共編、光文社文庫 背表紙の表現を借りれば、「日本ミステリー界の二大巨頭が編者を務めた伝説的な名著を半世紀ぶりに復刊」とのこと。この2人のみならず、同時代の推理作家や評論家らがテーマごとに書いた「推理小説」についてのエッセ…

田宮模型の仕事

田宮俊作著、文春文庫 プラモデルで知られる「タミヤ」の社長による会社の「自伝」。静岡の製材屋から木製模型、プラモへと進化し、世界で取材、営業をする姿は、ソニーの成功譚を彷彿とさせる。特に、模型とは直接関係ないが、イスラエルへの取材旅行の際の…

レディ・ジョーカー(下)

高村薫著、新潮文庫 レディ・ジョーカーもいよいよ完結。物語はクライマックスに向けてスピードアップしていくが、逆にそれまでのじっくりとした描写から比べると、終盤は粗い印象を持った。雑誌連載の「尺」の問題もあるのかと思ったが、文庫化にあたって相…

レディ・ジョーカー(中)

高村薫著、新潮文庫 事件は、3回にわたる偽の現金授受劇など、展開し続ける。合田は、日之出ビール社長・城山のボディ・ガード兼捜査本部のスパイとなって、合田らしい活躍をする。ただ、物語の上ではあくまでも(中)であって、多くの論評はできない。 印…

レディ・ジョーカー(上)

高村薫著、新潮文庫 帯にあるように「伝説の長篇、ついに改稿文庫化!」である。高村氏は単行本を(じっくり)改稿してから文庫化する作家として知られる。経済的な理由もあって、小説は原則的に文庫でしか読まない身としては、いささかつらい。本作は警視庁…

亡国のイージス(下)

福井晴敏著、講談社文庫 イージス艦の反乱がめまぐるしく描かれる。前置きが長かった分、その後の展開はスピーディー。私は普段の読書の際、印象に残った描写があるページを折ることにしているが、それをほとんど忘れるくらいだった。全559ページの下巻で…

亡国のイージス(上)

福井晴敏著、講談社文庫 別に「ガンダムUC」を読んだからという訳ではないが、福井氏の代表作は、以前から読みたいと思っていたところ、ブックオフで発見、購入した。 海上自衛隊のイージス艦が「反乱」を起こすという想定は、「沈黙の艦隊」を思い起こさ…

やがて哀しき外国語

村上春樹著、講談社文庫 村上春樹氏がプリンストン大学で講師をしていた頃に書いたエッセー集。主にアメリカ文化(プリンストンの文化)について論じている。また、村上氏が作家になる前、ジャズバーを経営していた話が繰り返し語られるなど、きょうびのファ…

ごろつき船(下)

大佛次郎著、小学館文庫 帯に「息もつかせぬ展開!」とあるように、物語はめまぐるしく展開する。江戸から海上だけでなく、シベリアを経て舞台は福山に戻っていく。そしてラストはなんと安南(ベトナム)。福山に主要登場人物が全員再集結する下りは、強引と…

ごろつき船(上)

大仏次郎著、小学館文庫 書評家・北上次郎氏の「昭和エンターテインメント叢書」。「鞍馬天狗」で知られる大仏だけに、昭和を代表する「エンターテイメント作家」と言っていいだろう。 帯に「波瀾万丈の大ロマン」とあるように、物語は北海道から始まり、東…