レディ・ジョーカー(上)

高村薫著、新潮文庫
レディ・ジョーカー 上 (新潮文庫)
帯にあるように「伝説の長篇、ついに改稿文庫化!」である。高村氏は単行本を(じっくり)改稿してから文庫化する作家として知られる。経済的な理由もあって、小説は原則的に文庫でしか読まない身としては、いささかつらい。本作は警視庁刑事、合田雄一郎三部作の完結編とされるが、同じく文庫化と同時に飛びついた前作「照柿」からもずいぶんと時間が経っているきがする。
しかし、待った甲斐はあったというもの。特に合田が(ちらっと)初登場する場面にはわくわくした。

なんということもないスーツとダスターコートの恰好はともかく、いかにも軽くて履き心地のよさそうな白いスニーカー一足が、半田の目の中でちかちかした。(中略)いったい、スニーカーを履いてスーツを着るというのはたんなる無神経か、よっぽど自分に自信があるのか。

さて、事件はビール会社の企業恐喝。犯人グループが犯行を思い立つまでが若干、冗漫な気がするが、(高村作品らしく)それだけ描き込まれているということである。年代は違えど「グリコ・森永」を彷彿とさせる事件の今後が楽しみである。