ごろつき船(上)

大仏次郎著、小学館文庫
ごろつき船 上 (小学館文庫)
書評家・北上次郎氏の「昭和エンターテインメント叢書」。「鞍馬天狗」で知られる大仏だけに、昭和を代表する「エンターテイメント作家」と言っていいだろう。
帯に「波瀾万丈の大ロマン」とあるように、物語は北海道から始まり、東北を経て上巻の後半で江戸に至る。とにかく人がよく死ぬのも昭和っぽい。主人公(と思われる)松前藩の役人の妻やその兄らそこそこ重要な人物と思われる者たちが、意外なほどあっけなく死んで行く。それが物語に異様なまでの緊張感を与えているわけだが、さらに人間の醜さ、恐ろしさも随所に描かれている。例えば、それまでは基本的に善人として描かれていた、事件の被害者の息子の乳母が、その息子を事件の黒幕に売りつけるような話をさせ、さらに

この子が大きくなって赤崎屋にあだが出来るようになってから、大きくまとめて儲けることにするのさ。

こんなことも言わせている。
文体は重く、読むのに多少疲れるが、下巻が楽しみである。