ごろつき船(下)

大佛次郎著、小学館文庫
ごろつき船 下 (小学館文庫)
帯に「息もつかせぬ展開!」とあるように、物語はめまぐるしく展開する。江戸から海上だけでなく、シベリアを経て舞台は福山に戻っていく。そしてラストはなんと安南(ベトナム)。福山に主要登場人物が全員再集結する下りは、強引というか、説明不足の感があるが、楽しめた。昭和3年の作というが、こういう忘れられた作品が、復刊されるのはうれしい。ロマンがあると同時に、人間の機微にもしっかり触れている。例えば、遊び人だった悪家老の弟が、その家老の死をきっかけに、後釜に座る。そこにかつての愛人が訪ねて来たのを聞き

「知らぬな」
「江戸ではいろんな人間に会ったから、そう一々覚えていない。殊に多用だ、そう申して帰してしまえ」

と言い放つ。これが、この男の破滅を呼び込むのである。