亡国のイージス(上)

福井晴敏著、講談社文庫
亡国のイージス 上 (講談社文庫)
別に「ガンダムUC」を読んだからという訳ではないが、福井氏の代表作は、以前から読みたいと思っていたところ、ブックオフで発見、購入した。
海上自衛隊イージス艦が「反乱」を起こすという想定は、「沈黙の艦隊」を思い起こさせる(言うまでもなく「沈黙」は潜水艦だったが)。若干マニアックすぎるきらいはあるが、装備から護衛艦内の文化に至るまで描写は細かい。その分、艦長をはじめ、反乱を起こす動機に粗が目立ち、北朝鮮工作員と手を組む理由に至ってはほとんど意味不明だが、この辺は下巻で納得のいく説明があるのかもしれない。
ただ、反乱の伏線となる、艦長の息子が書いたとされる論文の一節は身につまされた。

経済や労働力にしても同様で、優れた職人気質を持つ者は、往々にしてその職能を通してしか世界を見ようとせず、結果的に狭量な価値観と人生観の中に己を追いやってしまう性癖がある。プロフェッショナルとしての能力が、その者の人格をも高めるということは希なのである。