運命の人 一

山崎豊子著、文春文庫
運命の人(一) (文春文庫)
沖縄返還をめぐるいわゆる「西山記者事件」を題材にした長編。文藝春秋連載中に少し読んでいたが、最後まで行けず、今回、NHKのドラマになったのを期に通しで読んでみることにした。
この第1巻では問題の文書漏洩から、発覚の端緒となった社会党議員の国会質問、外務省女性事務官と記者の逮捕までが描かれる。連載時にはもっと早い段階で明らかになったと思っていた記者と事務官の「不倫」はまだ明らかにされていない。
細部の描写はさすがにリアルで、元新聞記者の作者らしく、特に新聞社の描き方は次にように生々しい。

というのも、社会部と政治部とは隣り合っているが、元来、犬猿の仲に近い。片や天下国家を論じながら、特定の政治家と癒着し、都合の悪い記事は一切、書かないという点で、新聞記者の風上にも置けないと侮蔑しており、片や社会正義を口にしながら、警察、検察と持ちつ持たれつで、叩き(強盗)や殺しを追うだけの事件記者ではないかと見下す傾向にある。