日記をつける

荒川洋治著、岩波現代文庫
日記をつける (岩波現代文庫)
著者略歴によると、荒川氏は「現代詩作家」。自身も長いこと日記をついているという著者が、作家の日記を取り上げつつ、その効用などを語る。日記そのものは、取り上げる作家が若干マニアックなこともあり、さほど印象に残らないが、一方で、日記から見える人の「在り様」のようなものの分析が面白かった。たとえば

どれだけその人について記憶しているかを愛情の尺度にする人もいる。これがきびしい。(中略)何年か前の日を「あれは秋だったなあ」くらいでとどめようとするときに、「九月の十二日、たしか水曜日よ、わたしは神戸から帰ってきたときで、会ったのは午後五時、そう十五分くらいあなたが遅れて来て、本屋で、たしか『君のことを忘れない』という本を買ってた、そのあとラーメン食べようとしたけど、そのまま別れた」などと精細な人もいる。このうちどれかひとつでも思い出さないと、あなたはわたしの言うことをいつも聞いていない、愛情も関心もないといわれてしまうのである。それは一面であたっている。あたりすぎているほどだ。

とある。
私自身は、だいぶ若い頃、中学生とか高校生のころに一時、日記をつけた記憶がある。その後、そういう習慣をもったことはなかったが、こうして未曾有の大災害が起こってみると、自分の人生を見つめなおしてみようかな、というような気持ちが起こらないでもない。問題は「何で」つけるか、である。ノートだと家でしかつけられないし、スマホは持っていないし…ということで、なかなか踏み出せないでいる。