或る「小倉日記」伝 傑作短編集(1)

松本清張著、新潮文庫
或る「小倉日記」伝 傑作短編集1 (新潮文庫)
松本清張の短編のうち、現代小説(いわゆる純文学的なもの)を集めた。森鴎外の小倉時代の追跡に夢中になる市井の人を描いた表題作は芥川賞受賞作である。障害を持ちながら研究に情熱を注ぐ男と、それを支える美しい母親の無償の愛は胸を打つ。ラストにはアイロニーも用意されていて、さすがに秀逸な作品になっている。
その他の収録作は、名を成す、あるいは権威への復讐に燃える学者らを描くなど、世界観は若干暑苦しい。映画「張込み」の、じっとりと汗をかきながら覗きを続ける刑事のイメージがこびりついているから、余計暑苦しさを感じてしまうのかもしれないが、その「張込み」の原型、あるいは後日談的な「火の記憶」も興味深い作品であった。