新選組遺聞

子母沢寛著、中公文庫
新選組三部作 新選組遺聞 (中公文庫)
子母澤新選組三部作の第二作。新選組始末記 - a follower of Mammonに入りきらなかった話をまとめたようだが、エピソード自体はダブリもかなり多い。漢文体の手紙や日記、浪士が詠んだ和歌の類が多数収録されていて、本格的な研究書に近いものとなっているが、読み進めるのはつらい面もある(このような部分は大半読み飛ばすことになった。
ただ、この本の最大の価値は、壬生屯所となった八木家当主の息子、為三郎氏(当時は「翁」となっている)の長い聞き書きが掲載されていることだろう。少年の目から見たものとはいえ、隊士らの日常生活を生き生きと伝えている。例えば、山南敬助切腹する際、その部屋の格子戸のところになじみの天神・明里が来たという話。

明里は、
「山南さん山南さん」
といっていたようです。暫くすると、格子戸の障子が内から明いて、山南敬助の顔が見えました。私もはッとしましたが、明里は格子へつかまって話すこともできずに、声をあげて泣きました。山南のこの時の顔は、今でも、はっきり思い出せますが、何とも云えない淋しそうな眼をして、顔色が真青になっていました。

新聞記者・子母沢寛の面目躍如である。