暁の寺

三島由紀夫著、新潮文庫
豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)
「輪廻転生」をテーマにした三島の遺作「豊饒の海」の第3巻。4部作の「起承転結」の「転」にあたる巻とされ、確かに過去2作では脇役というか、狂言回しに近い役回りだった本多が、完全に主役を演じることになる。1作目の春の雪 - a follower of Mammonの松枝清顕の「生まれ変わり」は今回、タイのお姫様ジン・ジャンということになり、本多が「恋」をする。「春の雪」のタイ王室からの留学生の逸話が見事に生かされているわけであるが、冒頭のタイ、インドの描写など本巻の強い「異国情緒」には戸惑う向きもあるかもしれない。
また、ほとんど偶然に大金持ちになった本多が、男女の濡れ場の「覗き」を性癖としていることが明らかになり、醜悪な部分もさらす。その意味では、主人公としての「キャラクター」がより確立したと言えなくもないが、終盤に明らかになるジン・ジャンの側の性癖といい、物語の「深み」は過去2作に劣るような気がした。
ただ、またしてもはっとさせられたのは女の言葉であった。子を産めなかった本多の妻梨枝が、夫との関係を疑うジン・ジャンの水着姿を見て放つ一言。

「まあ、あの体なら、ずいぶん沢山子供が生めそうだこと」