アメリカを作った思想

ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン著、入江哲朗訳 ちくま学芸文庫

アメリカを作った思想 ――五〇〇年の歴史 (ちくま学芸文庫)

 図書館で借りる。題名の通り、アメリカへの入植から9.11同時多発テロまでの約500年にわたるアメリカの思想史をまとめた本である。著者は歴史学の教授である。

 先住民との「交流」や独立につながった啓蒙思想奴隷制ダーウィニズムの特に宗教への影響からポストモダニズムまで、主要な思想家やその考え方を年代を追って網羅している。

 訳文もやや難解で、決してとっつきやすい本ではないが、アメリカを形作っている考え方を把握するにはいい本である。そういう意味では概説的な本であり、アメリカ史を多少なりとも知る人にとっては目新しさはあまりない。また、訳書は今年の出版であるにもかかわらず、9.11で終わっているため、今日の激動するアメリカの政治・社会に対する直接的な記述がないのは物足りない。ただし、小さな発見のようなものはかなりある。例えば、黎明期の大学についての記述では

 奴隷という労働力を抱えながら自由賛歌をしたためていたジェファソンとまったく同様に、初期アメリカの諸大学は啓蒙的人種学の拠点であったばかりでなく、人種的抑圧の受益者でもあった。アメリカのあらゆるカレッジは、例外なく、アメリカ先住民が所有権を放棄させられた土地に建てられた。諸大学と奴隷制との繋がりは規模や種類がまちまちであったけれども、繋がりを持たずに済んだところはひとつもなかった。

 とされている。「ブラック・ライブズ・マター」によって、大学でも奴隷制の擁護者に対する風当たりがかなり強くなっているが、いずれの大学もそもそもその成り立ちにおいて「抑圧」が基盤になっているということである。そのことは、ご都合主義と言わないまでも、皮肉ではあり、奴隷所有者の銅像を引き倒す、あるいはその映像を観るだけではなく、より深く考え続けることの必要性を物語っていると言える。