LIFE SCIENCE 長生きせざるをえない時代の生命科学講義

吉森保著、日経BP

LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義

 hontoにて読了。著者は、「オートファジーの仕組みの解明」で2016年のノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典氏の弟子筋にあたる大阪大学教授で生命科学者。題名からも分かるように、明らかに同じようなテーマのベストセラー、LIFE SPAN 老いなき世界 - a follower of Mammon を意識している。本文中でも触れられているが、老化を病気とする『LIFE SPAN』著者のシンクレア氏の考え方を否定し、その著書ではあまり触れられていなかった、細胞の自食作用、いわば再生の仕組みである専門の「オートファジー」の説明に多くを費やしている。断食やワイン、納豆の勧めなど目新しいものはないものの、具体的にどうすればいいかが最後に述べられているのもこの手の本の趨勢に従っていると言える。

 しかし、本書の特徴はむしろ、長生きの仕組みを分かりやすく解説していること(それ自体、発見が多い、興味深い読書体験ではあったが)よりも、「科学との向き合い方」が盛んに力説されている点にある。例えば「断定する人は科学的に怪しい」との項目では、

 特に、新型コロナウイルスのように、ウイルスの感染拡大が速すぎて科学がまったく追いつけていないものは「真理に近い仮設」もまだないので、残念ながら科学的な人ほど断言はできません。繰り返しになりますが、科学は、仮説を出しては潰し、出しては潰し、いかに「真理に近づけていくか」、というものです。新型コロナウイルスに対しては、仮説を出しては潰す、検証する時間がまったく足りません。

などと説明している。あるいは相関関係を因果関係かのように言うのがエセ科学の特徴であることなど、科学を見る目に注意を促す記述が繰り返しなされている。コロナ下の2020年12月発行の本なので、とりわけ一般国民が科学を見る目に危機意識が強かったのかもしれないが、そういう意味でも今の時代に読むべき本だと思った。