ガイアの復讐

ジェームズ・ラブロック著、秋元勇巳監修、竹村健一

ガイアの復讐

 地球に住めなくなる日 - a follower of Mammon で「ガイア仮説」が紹介されていたのを受けて、図書館で借りる。1960年代に発表された「ガイア仮説」は「生物圏が地球気候と大気組成を、生物が生きていくうえで最適な状態に調整・維持している」というものだったが、それがその後、発展し「地球そのものが一つの大きな生命体」とみなす「ガイア理論」となっているという。本書はそのガイア仮説・理論を提唱した英科学者のラブロック氏の2006年の著書。比較的最近なので、地球温暖化についての話など、今日的なテーマを追うことができる。

 エネルギーに関して特に独自性が目立つ著者の見解の中でも、やはり目を引くのは原子力の有用性を強調しているところだろう。洪水では何百万人も死ぬ可能性があるのに、チェルノブイリ原発の事故では75人しか亡くなっていないことを例に挙げたりしながら

 私はこの原子力を、今使用すべき唯一の特効薬と考えている。例えば過食と運動不足のせいで糖尿病を患ったら、ご存じのとおり投薬だけではじゅぶんな治療効果はあがらない。生活習慣全般を見直す必要がある。原子力はこの場合の薬にあたる。太陽のエネルギー源でもあるクリーンで永続的な核融合エネルギーと再生可能エネルギーが有効利用できるようになるまで、核分裂エネルギーは文明の光を燃え続けさせるために、安定した確実な電力源を維持する役割を果たしてくれるのだ。

としている。地球温暖化がそこまで「待ったなし」になっている危機感と、悲惨な結末を回避するための緊急避難的な対応だということが記されているものの、被爆国で、かつ福島原発事故を経験した国の国民としてはいささか抵抗は禁じ得ない。

 ただし、著者も述べている通り、当初は科学界から激しい抵抗にあったとされる「ガイア」の考え方も、地球のシステムをガイアとして擬人化したメタファーとすることで、少なくとも一般の人々には受け入れやすくなったのではないかと思われる。というよりむしろ、人類が排出する効果ガスや自然破壊によって苦しむ地球という擬人化は、それをガイア理論と呼ぶかどうかは別として、既に人口に膾炙しているだろう。そういう意味では、やはり著者に先見の明があったと言うべきだろうし、気候変動の時代に知っておくべき論であると思う。

 余談だが、本書を借りようと思った後の今年7月26日に103歳に亡くなったとのニュースに接し、妙な縁を感じた。