THE OUTLAW OCEAN

Ian Urbina著、Vintage

The Outlaw Ocean: Journeys Across the Last Untamed Frontier (English Edition)

 kindleにて読了。NewYorkTimesのbookreview podcastでホストが絶賛していて興味を持ち、読んでみた。

 同紙の記者による、題名の通り海の「無法地帯ぶり」についてのルポルタージュ。かなりの分量の本で、環境保護団体「シー・シェパード」による南氷洋での密漁船の追跡に始まり、漁船の船員の人身取引と監禁状態など過酷な労働環境、債権者の命を受けた船の「回収」、公開での堕胎を行うNGO、ブラジルのアマゾン沖で石油の掘削をめぐる環境影響調査、またもやシー・シーシェパードによる日本の「調査」捕鯨船の追跡などなど、テーマは非常に多岐にわたる。

 それぞれのテーマが、取材をもとに構成されていて、とにかくスリリングである。さらに、それぞれについて

 As we tried to negotiate our way onto the fishing boat, I wondered whether I would look back on the decision to board this rust bucket as a glaring and reckless miscalculation. In reporting, times like these are flooded with adrenaline and dread.

などと取材の様子や記者の心境も活写されている。取材者が半ば当事者となる、沢木耕太郎氏が言うところの「私ジャーナリズム」の要素も強く、そのことが物語の迫真性を増していると言える。

 個人的にはもう少し地球温暖化をはじめ環境問題に焦点を当ててほしかったが、特に漁船の船員の労働環境についてのレポートは衝撃的であり、海上、特に公海上の「無法地帯ぶり」には衝撃を受けた。日ごろ食している魚の「出所」についても思いを巡らさざるを得なくなること必定である。

 読み物として極めて興味深い一冊であることは確かで、ここ最近では最も刺激的な読書体験となった。海洋国家である日本の国民にこのような本というか、知識が知られていないのはよくないと思ったが、調べてみると訳書も出版されていた。日本人にとっても必読の書であると思う。