地球の履歴書

大河内直彦著、新潮選書

地球の履歴書 (新潮選書)

 楽天ブックスで買った紙の本で読了。著者は海洋研究開発機構の生物地球化学研究分野・分野長とのことで、地球科学者である。海や地層、南極、塩などをテーマにした8編の科学エッセーが収められている。

 それぞれの章が歴史上の科学者らの「名言」で始められ、平易に読めるように工夫されていることが分かる。一方で、地球科学に関するデータもちりばめられ、勉強にもなる。例えば「第六章 海と陸が出会う場所」では、海面上昇について

 過去一〇年あまりにわたって、海面は一年に三ミリメートルほどのスピードで上昇してきた。二〇一三年の海面は、私たちはY2K問題で大騒ぎしていた頃に比べると四センチメートルほど高くなり、この国がバブルに浮かれていた頃に比べるとおよそ八センチメートル高くなっている。自然が元来もつリズムに、近年の地球温暖化の影響が重なって生み出された変動だ。このゆっくりとした海面上昇は、一九世紀半ば以降、程度の差こそあれ、休むことなく続いてきた。現在の海面は、明治維新のころから比べると二五センチメートルも高くなっている。

と紹介している。

 正直言って、「履歴書」との題名もあり、もう少し体系的に地球や海洋の科学について書かれた本だと思って手に取った。そういう意味では想定と違うものではあったが、平易な文章の中にちりばめられた「知」に興味をそそられることが多かった。関心を持ったテーマについて、ここから掘り下げる「入口」として、お勧めできる本だと思った。上記の海面上昇の例にあるように、地球温暖化の影響も当然のことながら各所で触れられているものの、それ一色で押しつけがましくなることもなく、他の影響もきちんと紹介されていて、客観的な良著だと思った。