献灯使

多和田葉子著、講談社文庫

献灯使 (講談社文庫)

 図書館で借りる。多和田氏は芥川賞作家で、本書で全米図書賞の翻訳部門賞を受賞ししている。コンビニ人間 - a follower of Mammon と同様、文芸ピープル - a follower of Mammon で盛んに取り上げられていた。一部では「村上春樹よりノーベル賞に近い」と評されているが、作品を読むのは初めてだった。

 物語は曾孫の少年と暮らす100歳を超える老人の話。日常生活が淡々と語られているが、現実とは大きな違いがある世界に暮らす。彼らが住むのは東京の「西域」と呼ばれる場所で、日本はなぜか鎖国している。そのことについて、主人公は曾孫に

 どの国も大変な問題を抱えているんで、一つの問題が世界中に広がらないように、それぞれの国がそれぞれの問題を自分の内部で解決することに決めたんだ。

などと説明する。それに伴い外来語も禁止されるなどしているが、何よりも主人公の世代の人は、死にたくても死ねなくなり、曾孫の世代は逆に立てないほど体が弱く、歯も抜け落ちて固いものが食べられないという悲劇的な前提がある。

 本作品でははっきりと語られないが、本書収録の別の作品を読むと、この世界が大震災と原発事故後の別世界だということが示唆されている。そのある意味正面から向き合っている感が、「ノーベル賞に近い」と言われる所以なのかもしれない。

 ただし、いわゆる「パラレルワールドもの」としては興味をそそられたが、物語が淡々としすぎていて起伏に乏しく、読み進めるのに苦労した作品ではあった。