海の歴史

ジャック・アタリ著、林昌宏訳

海の歴史

 図書館で借りる。フランスの「知の巨人」による、題名の通り、海をめぐる歴史と、海の今後についての考察をまとめた本。WATER A BIOGRAPHY - a follower of Mammon が主に内陸の水に関する歴史の本だとすれば、本書はその海洋版と言える(出版は本書の方が早いと思われるが)。

 前半は水や海の成立から戦争、開発をめぐる海の年代記。なかなかスリリングで、いかに人類史が海洋で発展してきたが分かる。また、18世紀にイギリス人によって発明されたほとんど誤差のないクロノメーターについて

 クロノメーターを装備したイギリスの船は、出航の際にテムズ川の岸辺にあるグリニッジ天文台の時計の時刻にこのクロノメーターを合わせるようになる。こうしてグリニッジ天文台の時刻が次第に世界の標準時になったのである。

と紹介するなど、随所に興味深いトリビアがちりばめられていて飽きさせない。

 後半は海の現状を詳しく紹介するとともに環境問題や開発、紛争の可能性など今後を展望し、なすべきことを展望するものとなっている。

 けっこう厚めのハードカバーで400ページ近くあるが、内容は多岐にわたり、記述はかなり駆け足になっている。しかし、全体を通じて海の重要性、あるいは海の偉大さが身に染みた。地球環境保護は待ったなしの課題で、アタリ氏も人間が早晩、海を殺してしまう可能性にも言及している。ただ単に現在の危機を叫ぶだけでなく、歴史の土台に立った本書のような議論が重要なのだろうと思った。