本当の翻訳の話をしよう

村上春樹著、柴田元幸著 スイッチ・パブリッシング

本当の翻訳の話をしよう

 図書館で借りる。村上春樹氏と、その翻訳の「師匠」である英文学者で東大名誉教授の柴田元幸氏の対談を集めている。主に柴田氏が発行している文芸誌「MONKEY」に掲載されたものが中心で、近現代の英米文学をめぐる対話となっている。

 残念ながら、ほとんど読んだことがない作家の話題ばかりで、なかなか印象に残らず。村上氏は

 ヘミングウェイのニック・アダムズものを読んだ人と読まない人とでは短編小説に対する考え方が違ってくると僕は思うんです。

と語り、学生時代に読んだヘミングウェイに話題が及んでようやく話について行けると思いきや、その先は

 あれは本当に素晴らしいし、短編小説というもののすごくきっちりとした手本になっている。

とかなりあっさりしている。この辺りをもっと突っ込んで読みたかったので、いささか残念であった。一方で、刊行された訳書の営業的な側面もあるのだろうが、そのほかの作家についてはかなり詳しく論じている。軽妙なやり取りで、楽しくなかったかと言えばそうでもないが、基本的にはそれらの作家の、あるいは村上、柴田両氏のファン(2人が好んでいる作家の作品を読んでみようと思うような)向けの本なのであろう。

 そういう意味では私によっては「これを読んでみよう」と思うような出会いはほとんどなく(フィリップ・ロスの「素晴らしきアメリカ野球」くらいか)、過去にも2人の共著を読んできたが、そろそろ潮時かと思えた。