廃墟建築士

三崎亜記著、集英社e文庫
廃墟建築士 (集英社文庫)
奇想天外な設定が売りの三崎氏による中篇4作が集められた作品。
「となり町戦争」では、「いかにもありそうな」行政文書の描写など公務員作家らしさが光った。本作でも表題作では耐震の構造計算を思わせるような制度を登場させたりしている。建物の「7階」を撤去するという行政の方針を巡る反対闘争を描いた「七階闘争」では、議会審議や、マンションの7階住人に転居を求める役人の様子を細かく描写するなど、全体として荒唐無稽な設定ながら細部は妙にリアルという世界観は健在だ。
一方で、後半の2作品はファンタジーとしての要素が強すぎるうえに、その前提となる設定が説明不足で、物語に入り込め切れなかった。「余韻」みたいなものを読者に残すことを狙った手法なのかもしれないが、それによって、せっかくの「細部のリアル」の効果も減退させているような気がして残念だ。