フィレンツェ史(上)(下)

マキャヴェッリ著、齊藤寛海訳、岩波文庫

フィレンツェ史(上) (岩波文庫)

 図書館で借りる。メディチ家 - a follower of Mammon と同様、メディチ家を調べる過程での必要性から読んだ。「君主論」で知られるニッコロ・マキャヴェリの歴史書(役者は小説としてとらえている)。初期のメディチ家の黄金期といえるコジモ、ピエロ、ロレンツォの時代を中心に、その前史のイタリア史からロレンツォの死までを描く。

 基本的には都市国家間の戦乱の話で、その過程や結果が淡々と(延々と)記述される。それぞれダイナミックで、人間味あふれる時に爽快な、時に残酷な場面が描かれているが、王侯や聖職者、当時都市国家の戦争では一般的だった傭兵のトップら人物が入り乱れ、理解しながら読み進めるのに苦労した。

 ただ、歴史的事実を追いながら、時折現れる詳細な記述、人物のセリフなどには興味深いものも多い(これが小説とされるゆえんである)。例えば、下層職人による同業組合に対する反乱「チョンピの乱」を謀る人物には

だから、おれが思うには、以前の罪を見逃してもらおうとするなら、新たな罪を犯すのがいい。悪事を繰り返して、放火や盗みを何倍にも増やすのだが、そのために大勢を仲間に引き入れようぜ。なぜなら、人数が増えれば誰も罰せられないし、小さな罪は罰せられるが、大きな罪は褒められるからだ。被害者が多くなるほど、復讐しようとする者は少なくなる。

 と語らせている。

 また、メディチ家追放中に実権を握っていたソデリーニに側近として仕えたマキャヴェリが、復権後のメディチ家の末裔である教皇クレメンス七世に献上した書だけに、コジモらに対する評価は異常なまでに高い。そのことが本書の歴史書としての信ぴょう性に影を落としているのだが、巻頭のお追従めいた「献辞」からはある意味でマキャヴェリ自身の「人間味」が感じられた。ちなみにマキャヴェリについてはだいぶ前に塩野七生氏のわが友マキアヴェッリ1〜3 - a follower of Mammonも読んでいる。