一刀斎夢録(上)(下)

浅田次郎著、文春文庫
一刀斎夢録 上 (文春文庫)
壬生義士伝」「輪違屋糸里」に続く浅田新撰組三部作の最後の作品にあたる。大正の時代まで生き延びた新撰組三番隊長で、稀代の人切りであった斎藤一の夜語りという構成になっている。
最初に竜馬暗殺が語られ、読者を引き付けるが、話の主眼は新撰組の活躍ではなく、新撰組が「いかに敗れたか」ということに置かれている。その意味では、文中で自決が批判される乃木希典の戦いぶりのみならず、後の日本に待ち受ける破滅的な敗戦の暗示にもなっているのかもしれない。斎藤が語る、剣士の心得や戦陣訓のようなものが印象深かった。
また、話の軸は隊士だった市村鉄之助とのかかわりに置かれている。日野に土方歳三の写真を届けた市村が、西南の役に鹿児島方で参戦し、戦死したとする説をうまく物語に仕立てあげたと言える。ただ、ここ最近の作品と同様、ラストの鮮やかさには欠けた。