THE O.HENRY PRIZE STORYS 2006

ANCHOR BOOKS
The O. Henry Prize Stories 2006 (The O. Henry Prize Collection)
北米の優れた短編小説に贈られる「O・ヘンリー賞」を受賞した20作品を集めた短編集。ある理由で必要性にかられて購入したものを通読してみた。
コンテンポラリーなアメリカ小説の現状を見るにはちょうどよい。古典的な男女の愛や現代家族のスケッチ、マイノリティー(異民族)たちの思いなどが描かれる。レズカップルの「別れ」をテーマにしたものまであった。中には使われている単語が難しく読み進めるのに苦労するものもあったが、いずれも興味深い物語だけに途中で投げ出すことはなかった。
ただ、短編小説だからか、尻切れトンボ気味に終わる作品が多かった。細かいところまで書かれないまま終わった後の「余韻」を楽しむのも短編小説の醍醐味の一つなのかもしれないが、やや消化不良になるのも事実。その中で私のベストワンはAlice Munro著「Passion」だった。
初老の女性(Grace)が思い出の地を訪ねる場面から始まる。廃れた一軒の家の前で、そこに住んでいた家族にまつわる出来事を回想する。その家族とのかかわりをたどり、女性の持つ「熱情」が明らかになっていく。感情や場面の変化の付け方があざやかで、最後に「事件」も用意されている。
選者の一人はこの作品を次のように評している。

The story offers no character who is easy to explain, or whose motives or actions follow simply from their clearly delineated personality. And this goes against the grain of pure simplicity and controlled clarity in the prose and becomes, for that, all the more surprising and, at times, almost alarminig. This way of hiding the sheer complex nature of Grace by making her appear simple and natural is part of the pure genius of the story.