カラマーゾフの兄弟4

ドストエフスキー著、亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫

カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)

この第4部で物語はエピローグを残すのみとなった。巻末の「読書ガイド」を含め700ページで、全5巻で最も分厚い。ドミトリーの裁判の場面がメーンだが、それだけ中身の濃い内容となっている。

まず、第11編でフョードル殺害の「真犯人」が明かされ、続く第12編の題名が「誤審」。読む前から裁判の結果は明かされている(しかもこれまでにも所々、話者がその結果を前提に狂言回しを行っているところがある)ことから、今更言うまでもないが謎解きがこの小説のテーマではない。
圧巻はやはり1日で陪審員の評決まで行ってしまう裁判の描写だろう。多少くどくはあるが、細部が面白かったりする。たとえば、カラマーゾフ家の使用人の妻マルファが、事件当夜のスメルジャコフについて「てんかんの発作で一晩中うなっていた」とした証言に対する弁護人の反証はこんな感じ。

わたしはあるご婦人を存じあげております。そのご婦人がひどくこぼされたのですが、夜どおし庭でスピッツがきゃんきゃん吠えて眠れなかったというのです。ところが、あとでわかったのは、そのかわいそうなワンちゃんが吠えていたのは、ひと晩を通じてせいぜい二、三回でした。

そして何よりも印象に残ったのは、物語の2人の女主人公とも言うべきカテリーナとグルーシェニカの対比である。これまでは「性悪女」として描かれてきたグルーシェニカに対し、「高潔なお嬢様」として描かれてきたカテリーナ。カテリーナの方が「男の理想の女性像」としての印象を抱かせるような提示のされ方をしてきたが、裁判の最後の最後でドミトリーを破滅に追い込むのは彼女だったのである。大げさに言えば、これには戦慄に近い感動を覚えた。
やはりすごい作品である。