バースデイ・ストーリーズ

村上春樹編訳、中央公論新社
バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

村上春樹「翻訳ライブラリー」の一つで、誕生日をテーマにした短編集です。ここ10年間くらいに書かれた「コンテンポラリー」な作品を集めたそうで、現代の欧米作家を知る手掛かりにもなります。
村上氏本人もあとがきが書いているように、誕生日だからと言って「ハッピー・バースデイ」的な明るい作品はほとんどない。
村上氏はこの点について

これはたぶん小説家という人種の圧倒的大半が、性格的に素直でないからだろう。誕生日といえばどうしても「ハッピー・バースデイ」だし、「よし、それならひとつ、ハッピーじゃないものを書いてやろうじゃないか」ということになるのではないか。少なくとも僕はそう推察する。

と解説しておられる。そういう意味では、小説そのものにハッピーな作品というのが少なく、ある種不幸な作品の方が「売れる」という側面もあるのでしょう。

私にとって特に印象に残ったのは「ティモシーの誕生日」(ウィリアム・トレバー)と「バースデイ・ケーキ」(ダニエル・ライオンズ)。どちらも子の帰りを待つ親の心理というものがよく描かれています。子をもつ親であると同時に、親をもつ子であることで、こういう作品が身にしみるのでしょう。

最近、仕事仲間の間で誕生日会を開くことが流行っています。最初は誕生日に一緒に過ごす彼女がいない男を「励ます」というようなシャレで始まりましたが、仲間内の誰かが誕生日を迎えるたびに開かれるようになりました。もちろん、いずれもハッピーな会合になっていますが、それは誕生日の裏にあるこうした寂寥感を忘れるためであるのかもしれません。